裏腹王子は目覚めのキスを

「トーゴくん、わたしに手を出すほど、飢えてないんでしょ……?」
 
最初の頃に笑っていた王子様を思い浮かべながら、どうにか口にすると、トーゴくんは自分の言葉を思い出したように目を細めた。

「……女には飢えてねえよ」

「だったら」

「でも、お前には飢えてる」
 
その意味を理解する前に、首筋に顔を埋められた。
吐息が這う感触にあわてて身体をよじる。

「や、やだっ」
 
押しのけようとする腕を押さえこまれ、ふたたび唇を塞がれる。
口内へと押し入ってきた彼の動きに、頭の奥が痺れて、何も考えられなくなる。
 
それでもわたしは力を振り絞って、トーゴくんを押しかえした。

「やめてってば!」
 
震える唇をぎゅっと結び、隙を見せないように上半身を起こして、信じられない気持ちで彼を見つめた。
そんなわたしを、トーゴくんは、感情が消えたような冷めた目で見下ろす。
 
何を考えているのかわからない。
 
全然わかんない。
 
最後だから記念に抱いてやれ、みたいな感覚なのかもしれない。
 
――トーゴくんとのキスは、別れの口づけだ。
 
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