裏腹王子は目覚めのキスを
 
抗いたいのに、彼に触られると力が入らない。
 
悲しいはずなのに、嫌なはずなのに、心とは裏腹に、身体は熱を帯びていく。
 
ふと手を止めて、トーゴくんはわたしを見下ろした。
何かを決意したような、熱のこもった目で――


「俺が目ぇ覚まさせてやる」

 
伸びてきた手にするりと肌をなぞられ、くすぐったさに首をすくめると、彼はわたしの顎に手をかけて上を向かせた。

真正面から目が合って、呼吸を忘れる。 


「だからお前は、ちゃんと俺を見ろ」
 

吐き捨てるように言うと、トーゴくんはわたし身体のあちこちに、唇を落としはじめた。
 
真っ黒な瞳に魔法をかけられたように、身動きができない。
 
彼の髪が喉元をくすぐり、柔らかな唇が音を立てながら肌をおりていく。
 
身体中にキスを受けて、わたしの心臓は今にも壊れそうだった。


「んんっ……」
 
気がつくと、自分のものとは思えない艶かしい声がこぼれていて。
 
トーゴくんに触れられているうちに、呼吸が上がっていく。


「や……どう、して?」
 

身体が、おかしい。
 
健太郎くんや、その前の彼氏に触られても冷えたままだった身体が、王子様の熱でどんどん火照っていく。
 
なんだか怖い。
そう思って込み上げるものを抑えようとしても、身体を触られると否応なしに反応してしまう。
 
トーゴくんの指先や唇が、全身にあるわたしの細胞を、鍵のかかった扉を、ひとつずつ丁寧に開けていく。

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