裏腹王子は目覚めのキスを
 
だって小さい頃は、ただの憧れのお兄ちゃんだと思ってた。
 
女の子を次々に変える浮ついた態度が、嫌いだった。
 
でも、そんなトーゴくんのことを考えない日は、一日だってなかった。
会わずにいた12年間でさえも、わたしは彼のことを毎日のように思い出していた。
 
生まれてからの27年間分、わたしの記憶を編集したら、きっと半分はトーゴくんで埋まっている。
 
彼と身体を合わせていたときの満ち足りた感覚は、目が覚めたらすっかり消えていた。
 
トーゴくんでいっぱいだった引き出しは、めいっぱい開かれ、中身がすっかり溢れ出て、空っぽになってしまった。
 
まるで、主が不在のこの部屋のように。
 

香水の匂いが微かに残る枕を、ぎゅっと抱きしめる。
 
彼の考えていることが、わからない。
 
わたしの気持ちを強引に引っ張り出したのに、トーゴくんはわたしをどう思っているのか、自分の気持ちをはっきりとは口にしていない。
 
大事にしてくれてるのだとは思う。
 
でも、お姫様がわたしひとりとは限らない。

「ずるいよ……トーゴくん」 
 
何も言わず、彼は三日間の出張にでかけてしまった。
 
携帯には、メールもメッセージも届いていない。
 
まさかと思って部屋中を探しても、書置きなんていうドラマチックなものは、一切残されていなかった。




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