裏腹王子は目覚めのキスを



たぶん二杯目のサワーを飲み終えたあたりからだったと思う。

なんだか無性に身体が熱くなって、わたしは羽織っていたアンサンブルのカーディガンを脱いだ。
 
正面で紫煙を吐き出していたトーゴくんが、眉間に小さな皺を刻む。

「大丈夫か? お前、真っ赤じゃん」

「大丈夫―。まだ全然飲んでないもん。でもあついー」
 
脳がゆだってるのかと思うくらい顔が熱っぽくて、意識ははっきりしているのに頭と口がうまく回らない。
サワーグラスを持ち上げて自分の頬に押し付けると、ひんやりした感触が心地よかった。

「あー気持ちいー」

「呂律怪しくなってきてんぞ」

「そんなことないもーん」
 
アルコールのせいか、ずいぶん気が大きくなってる。

普段の冷静な自分が意識の隅っこに追いやられ、遠くから何かを叫んでいるのが分かる。でも小さなその声は全然届かなくて、わたしの感情は何にも阻まれずにむき出しの状態だった。

「水飲んどけよ」

「いらないってばぁ」
 
店員を呼ぼうとする彼の手を、咄嗟につかんで制止する。

「あ、トーゴくんの手つめたい」
 
女の人の手みたいな繊細な指先がひんやりとしていて、わたしはそのまま引き寄せて彼の手を頬に当てた。

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