裏腹王子は目覚めのキスを
「気持ちいー」
「……お前、実はすげえ酔っぱらってるだろ」
「そんなことないですー」
「口調が緩みまくりだし」
ため息をついて、彼は静かにわたしから自分の手を引き抜いた。呆れているらしいその様子に、わたしはついムキになる。
「うるさいー! だいたいトーゴくんは女の子にだらしなさすぎなんだよ」
突然怒りがこみ上げて、わたしはテーブルに身を乗り出した。
「わたしと飲みに来てる場合じゃないでしょー! 誰かと約束してたのにドタキャンして!」
「はあ?」
トーゴくんが眉を歪めたのがわかるのに、わたしの心の声はそのままの形で口から出ていく。
正常時に機能しているはずのフィルターがすっかりバカになってしまって、言葉は蛇口から溢れる水みたいにするするこぼれた。
「仮病つかって別の女と飲みに行くなんて最低―!」
「べつに彼女じゃないんだからいいだろ」
「そういう態度が女をバカにしてるんだってば!」
「……こいつ、絡み酒かよ」
面倒くさそうにつぶやく声を、わたしは聞き逃さなかった。言葉のフィルターが機能しない代わりに、五感が冴えわたってるみたいだ。
「そうやってすぐ面倒くさがる!」
「へーへー、すいませんねぇ」
「心がこもってなーい! トーゴくんはねぇ、女の人と真面目に向き合ってないんだよ。どうせ誰かに本気になったこともないんでしょー!」
土砂降りの雨がダムを決壊させて濁流が溢れ出すみたいに、抑えていた感情を爆発させると、トーゴくんはぽつりと言った。