裏腹王子は目覚めのキスを
「あるよ」
「え……?」
「これでも本気になったことあるよ、何度か」
予期せぬセリフに、わたしは話の接ぎ穂を失った。
立ち上がりかけてた身体を席に戻して、息を吸い込む。頭が、ぐらぐらする。
「本気の恋愛、したことあるの……?」
吸いさしの煙草を灰皿に置いて、長い指先はハイボールのグラスを引き寄せる。
氷の浮かんだ薄黄がかった透明の液体が、鼓動するみたいに揺らめいた。
「そりゃ、いろんな女を見てきたし。なかには本気で好きだと思った相手だっていたよ、何人か」
肺が、急に重たくなった。ふわふわと軽かった身体が、急速に冷えていく。
――トーゴくんは、女の子に本気にならない。
そう思っていたのに。
「……本気なら、どうして今、彼女になってないの」
お、イイとこに気づいたな、というように凛々しい眉を持ち上げて、トーゴくんはわずかに首をかしげた。
「俺が本気になるヤツって、たいてい他の男を好きになるんだよなー、何故か」
それは、振られてしまったということだろうか。
この王子様を差し置いて、別の男性を好きになる女の人がいるなんて、信じられなかった。
どことなく遠い目をしている彼に、おそるおそる問いかける。