裏腹王子は目覚めのキスを
 

起きた瞬間に感じる朝の空気から、冬の気配がすっかり消えた。

五月間近の金曜日の朝、食事の支度をしながら、ふとリビングを見る。
 
積み上げられていたダンボールは跡形もなく消え、清潔な空間でテレビもソファもテーブルも本来の存在感を放っていた。はじめてここに足を踏み入れた日の光景が嘘みたいに。

「写真撮っておけばよかった」
 
テレビでよくやるビフォアーアフターみたいに、王子様の汚部屋が美しいお部屋に大変身、なんて。
 
ひとりで笑っていると、リビング横のドアが開いてトーゴくんが起きてきた。
 
スウェットに身を包んだ彼に「おはよう」と声をかけると、普段より低い声で「おう」と返してくる。
どことなく不機嫌そうな、戸惑っているような気配があって、洗面所に消える背中を見やりながらわたしは首をかしげた。
 
ここ数日、トーゴくんがヘンな目で見てくる気がする。
そういえば今までは朝起きたら素っ裸で動き回ってたのに、いつのまにか服を着てから出てくるようになってる。
 
おそらく、このあいだの日曜日にわたしがアルコールで失敗してからだ。
 

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