裏腹王子は目覚めのキスを

「要領も悪いし、自分ができない人間だって分かってるから、働いてもまた失敗するんじゃないかって」
 
考えると手が震える。怒鳴られて、萎縮してしまったあのときみたいに。
 
聞こえないはずの着信音が、頭のなかにわんわん鳴り響く。
 
毎日のように先輩や上司に叱責され、自分がどれだけできない人間なのかを思い知らされた。

「どんな仕事しても、きっとわたし、うまくできない」
 
喉を絞められているみたいに、息苦しい。震える手を隠すようにテーブルの下で両手を握りしめる。

「それが恐い」
 
自分に、自信がない。
 
気持ちをどうにか静めようと、わたしは細く息を吐きだした。
重くなってしまった空気を散らそうと、無理に笑う。

「なんて、いろいろ考えちゃって」

「お前、ちゃんとやってくれたじゃん」
 
ふいに耳に入った言葉は、わたしの脳を通り抜けた。

「え?」
 
内容を理解できないわたしに、トーゴくんは取り皿を置いて、目を合わせる。

「部屋片付けてくれたのもそうだけど、どうにかメシ食わそうとしてくれたり、シャツにきっちりアイロンかけてくれたり」
 
思い起こすように言って、わたしを見る。

「俺が居心地いいようにしてくれてただろ。あれも立派な仕事じゃねえの」
 
トーゴくんの言葉が、まっすぐ飛んでくる。
視線をそらさず、訴えかけるような黒い瞳に、わたしは息ができなくなる。

「掃除も、料理も、段取りとかあるだろ。お前、だいぶ手際よくやってたと思うよ」
 
表情を緩めず、真剣な声で「自信持てば」と。

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