裏腹王子は目覚めのキスを
確かに、仕事を探すなら地元よりもこっちのほうが条件はいいかもしれない。
「でも、なかなか見つからないかもしれないよ」
「別に、ゆっくり探せばいい。派遣の登録とかして。なんなら知り合いの派遣会社、紹介するか?」
「あ、ううん、派遣なら、心当たりあるから……」
家に置かせてもらう上に、忙しいトーゴくんにそこまで面倒をかけられない。
持っていた箸を置いて、わたしは居住まいを正した。
ここ二週間のわたしは、トーゴくんがまともな生活を送るためだけに家事をする、いわば家政婦みたいな存在だった。
トーゴくんのためだけに全力で動いていたわたしに、職探しという別の目的が生まれたら、居候の意味合いが少し変わってくるんじゃないかと思った。
トーゴくんのマンションに、彼の生活だけじゃなくて、わたしの生活も入りこむことになりはしないかと。
わたしの仕事が決まるまで、なんていう曖昧な期限で他人を自宅に住まわせたりしたら、トーゴくんの負担にならないかな。
だいたい、わたしが居たら、女の人だって連れ込めないのに。
脳裏に去来するさまざまな思いをまとめてぶつけるように、
「本当に、いいの……?」
表情を引きしめて問いかけると、トーゴくんは、「ああ」とぶっきらぼうに答えた。そして「ここのガパオ、うめえな」と急に話題を変える。