裏腹王子は目覚めのキスを
スプーンを口に運びながら、香辛料がどうたらこうたらと話し始める彼は、料理を美味しいと言いながらも眉間に皺をよせて、怒っているようにも見える。
照れ隠し……?
わたしは拍子抜けして、ちょっと笑ってしまった。
王子様は、本当に素直じゃない。
いつまでも踏み出せないでいるわたしの心を見抜いて、手を差し伸べてくれたのに、自分はまるで関係ないみたいな態度を取ろうとする。
「それじゃあ、またしばらくご厄介になります」
「……おう」
あくまで目を合わせないまま、王子様はガパオライスの目玉焼きを慎重に崩しながら、低い声で応えた。
こうして、期間限定だと思っていた同居が思いがけず延長されることになった。
戸惑いはあるけれど、前向きな気持ちのほうが大きい。
実家にいるときはどうしてもこもりがちになって自分に甘えてしまっていたけれど、今なら前に進めるような気がした。
仕事を頑張っているトーゴくんを、間近に見てきたせいかもしれない。
わたしも、頑張りたい。
そう思える自分が、少しだけ頼もしかった。