裏腹王子は目覚めのキスを
「健太郎くん……久しぶり」
どんな顔をして会えばいいか分からないと緊張していたけれど、彼は昔と同じ、感情の読み取りにくい表情で答えた。
「ああ、驚いたよ。こっち戻ってきてたんだ」
久しぶりの再会はどこにも劇的な要素がなく、日常の一端のようにしめやかだった。
一年前に別れた日の次の日みたいな、不思議な連続性がある。健太郎くんが、全然変わってないせいかもしれない。
「ごめんね、急に連絡して」
「うん。じゃあ行こうか」
相変わらず、あっさりしてる。
のしのしと自動ドアをくぐっていく背中に、わたしは続いた。
目的の階に向かうあいだ、ふたりきりのエレベーターでも彼は無言だった。
自分で担当する派遣スタッフに対してもこうなのかな、と勝手に心配してしまう。
健太郎くんは社交辞令を言わない。
とてもストレートで、たとえ仕事であっても他人にへつらうことはない。
まるで心臓が鋼鉄でできているかのようにマイペースなのだ。
一見鈍感なようにも思えるけれど、それはわたしにはない強さだった。
十二階で降りたフロアの一角に、健太郎くんが勤める派遣会社の登録センターがあった。
受付の女性に会釈をして、わたしは衝立で仕切られた個別のブースに案内される。