裏腹王子は目覚めのキスを

「準備してくるから、これ書き込んで、待ってて」

「あ、はい」
 
プロフィールや職務経歴の記入用紙を置くと、健太郎くんはフロアに戻っていく。
わたしは机に置かれたペン立てからボールペンを拾い上げた。
 

健太郎くんはわりと大手の派遣会社で営業職に就いている。
仕事を求めているスタッフと、人材を求めている企業の橋渡しをするのだ。
派遣スタッフを企業に送り届け、就業がはじまったあとのフォローをする。
 
付き合っているときにいろいろと話を聞いていたけれど、まさか自分が彼の会社で派遣登録をすることになるとは思わなかった。
 

しばらくすると、健太郎くんは資料を抱えて戻ってきた。

「これからいろいろと説明するから、質問があれば言って」

「はい」

「まず、派遣の仕組みだけど」
 
無骨な外見からは想像がつきにくい淡々とした口調と仕草で、健太郎くんは説明を続けていく。
 
わたしと付き合っていたことなんてきれいさっぱり忘れてるんじゃないかと思うほど、声も目も、見ず知らずの人間に語りかけるように抑揚がなかった。

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