裏腹王子は目覚めのキスを

知人と接している証は、かろうじて敬語が薄れていることくらいかもしれない。
もっとも、健太郎くんはむかしからそうだった。ときどき付き合っていることを忘れるくらい他人行儀で、恋人にさえ感情を露わにするということがほとんどなかった。

「それじゃあ、スキルチェックをするから」
 
パソコンの置いてある部屋に連れていかれ、わたしは画面の前に座った。傍らに立った彼が、無表情のままわたしを見下ろす。

「最初にワード、エクセル、パワーポイントの基本的な操作の問題が出題されるから、画面の案内に従って進めていって」

「はい」

「タイピングと計算問題、それから一般常識のテストまで終わったら、声をかけて」
 
ロボットのように必要なことだけを言うと、健太郎くんはとなりの部屋に引っ込んでしまった。
パソコンが並んだ小部屋にひとり残されると、なんだか気が抜けてわたしは椅子の背もたれによりかかった。
 
喧嘩別れをしたわけではないものの、元カレを頼って連絡するのはどうなのか、と散々迷ってきた時間がばからしく思えた。
 
健太郎くんの一貫した淡白さに感謝しながら、わたしは画面に向き直る。

「よーし、満点目指すぞ」
 
気合を入れて、エンターキーを押した。




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