裏腹王子は目覚めのキスを
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健太郎くんとは、前の会社にいるときたまたまエレベーターに乗り合わせたことがきっかけで付き合うようになった。
彼の担当する企業が、わたしが勤めていた会社と同じビルに入っていて、何度となく顔を合わせているうちに、話をするようになったのだ。
それからどうして付き合うことになったのか、具体的なことは思い出せない。たぶん、好きな映画が同じだったとか、そういう興味の方向が一致したのだと思う。
仕事が忙しくてなかなか会えなかったけれど、それでも隙間の時間を使って食事をしたり、映画を観たりした。
彼は物静かだけどはっきりと自己主張をするタイプだったから、いつもどっちつかずで物事を決められないわたしは、引っ張ってもらっていた。
二年近く付き合ったけれど、忙しすぎて最後の方はもうほとんど会うことができなかった。
最後に顔を合わせたのは、わたしが身体を壊して仕事を辞めたときだ。
「実家に帰ろうと思う」と話したら、健太郎くんは「そう」とだけ答えた。
それが別れの言葉になった。
「じゃあ、一年間は何もしてないってこと?」
一年前に飛んでいた意識が、引き戻される。
目の前の椅子に座って、健太郎くんがわたしの職務経歴書に目を落としていた。