嫉妬のワケがない。
「では、あちらの方面に行きましょうか」


 あ?あちらの方面……って、おいおいおい!ホテル街じゃねェかっ!!!

 これから2人がナニをするのか。その事実に気が付いた瞬間、俺の頭の中で何かが弾け飛んだ。

 気が付いた時には身体は動き出し、笑顔で腕を組む2人に向かってずんずんと近付いていく。

 先に俺の存在に気が付いたのは、幸恵の方だった。俺の顔を見た途端、あからさまに不機嫌そうに眉をしかめる。

 本来ならこの時点で言い合い喧嘩が始まるのだが、横に男がいるからか、幸恵は眉をしかめただけで何も言ってはこない。

 いつもは何かしら言ってくるのに、男が隣にいるせいで何も言ってこない。俺より男を優先している。……その事実が、俺をより一層、腹立たせる。理由はやっぱり、分からない。


「すみません」


 他人に「すみません」……なんて、まったく、俺らしくない。

 いつもなら喧嘩腰に話し掛けているところだが、ダンディならではの雰囲気がムカつくので、こっちもダンディらしく接したまでだ。


「はい?」


 男はきょとんとした表情を浮かべ、俺の方を向いた。
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