嫉妬のワケがない。
「この女、俺のなんで、返してもらえませんかね?」

「は……?」

「まぁ、最初からアンタに選択肢なんて無いので、問答無用で返してもらいますがね」

「あっ、おい?!」


 男の腕に抱き着く幸恵を無理矢理引きはがし、そのままずんずんと歩き続ける。行き先なんて知らねェ。とにかく、人気のないところまで……。


「ちょっと!竜司(りゅうじ)!」


 聞こえない、聞こえない。


「ねぇってば!どういうつもり?!」


 あー、もう、相も変わらずキーキーとうるせェクソアマだな。

 ふと視界に入った路地裏に幸恵を連れ込んだ俺は、逃げられないように壁に手を押し当てた。


「『どういうつもり』だァ?それはこっちの台詞だ、アホ。テメェこそ、どういうつもりであんなチンチクリンの男といた?」


 なんだ、コレ。まるで、あの男に嫉妬しているみたいじゃねェか。


「ハァ?!私がどこで誰と何をしていようが、アンタには関係のないことでしょっ?!」


 ごもっとも。どうしてこんなことを口走ってしまっているのか、逆に俺が聞きたいくらいだ。なのに、俺の口はとまってはくれない。


「大いに、ある」

「は?」


 クソ。
 もう、どうにでもなりやがれ。


「……イヤなんだよ」

「……え?」
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