恋の捜査をはじめましょう
鮎川は暗に、俺らが視野に入れている捜査の方向性を…その重要性を、あながち間違ってはいないと指摘しているのだろう。
現に、過去には火事現場の野次馬を装って、SMSより情報を発信していた連続放火犯もあった。
世間から注目を浴びたい。その手段として、犯罪に手を染めた…寂しい女の話だ。
「……さあ、柏木さん。」
自信に満ち溢れた…大きな瞳に。俺の姿を、ハッキリと映し出す。
目の前の…コイツは。
きっと世間からの注目になど…てんで興味もなくて、派手な行動も…好むヤツでもない。
だけど、地道で…強かで。
相当な…努力家で。
おそらく…たった一人でもいいから、その理解者を…求めているのだ。
その相手は…?
俺は…ヤツの口元を注視して、次の言葉を…待っていた。
「……捜査を、はじめましょうか。」
それは…、此処にいる立場上では最も嬉しく、ヤツの口から欲しい言葉でもあった。
鮎川の完全復帰を、ずっと待ち望んでいたことも…事実。
だけど…、少し物足りないと思っているのは、俺だけだろうか?
「……鮎川。」
「んー?」
「お前、自分から催促しておきながら…メールは、放置かよ。」
「……!」
「開いてみたら?」
まだ、未開封のその中に…どんな想いが隠されているのか、知りたくはないか?
「…どうせバカだのアホだのって言葉で…罵ってくれてんでしょう?」
本物のアホか。
警戒もせず、やれやれって顔しているけれど…、その顔を、いつまで保っていられる?
「…………。」
スマフォの画面と対峙したヤツは、一瞬…目を見開いて。
いよいよ俯いたまま……、顔を上げようとはしなかった。
「……で。感想は?」
事件の捜査も…必須だけれど。
鈍感なヤツには、今一歩踏み込んで貰って…
こっちの思惑にも…そろそろ気づいてみろよ。
「………?鮎川…?」
「…………。」
「……おーい?」
「うるさい。……視姦するでない。」
「……また『視姦』て…。」
髪の隙間から垣間見える耳が…、真っ赤に染まっている。
「鮎川ぁ~。」
「……ナニ。」
「顔、あげて?」
「~……。呪うよ?ハゲろハゲてしまえ~って、唱えてしまいますよ?その覚悟はあるのですか。」
「……勿論。」
ヤツは…大きく息を吐き出して。
それから、ゆっくりと…顔を上げた。
両頬が、茹でたタコのように真っ赤。
おまけに、固く目を瞑っているから…。
悟られたくない心情でも…あるのだろう。
『目は口ほどに物を言う』のだから。
「…………。」
覚悟など、とっくに出来ているものだと…思っていた。
けれど、いざ…全身全霊で照れているヤツを目の当たりにすると、覚悟どうこう…身構えていても、アッサリとそれを打ち破るような鼓動が…ひとつ、重く、深く、音を奏でるのだった。
ならば…、対抗策は、ひとつ。
「可愛い。」
普段は絶対に言わないであろう言葉で…、逆にヤツを捕らえてしまえばいい。
「今のアンタ、最高にイイ女。」
鮎川 潤。
ヤツが…俺の想いに追いつくその日までは、こっちからは…言ってやらない。
『俺もアンタに会いに来た』
だから…、アンタ携帯に付けたアシを勘ぐって…いつか、辿りつけよ。
『好きだ』と自白するのは、それから。
まだ、もうちょっと…先のハナシ。