恋の捜査をはじめましょう




柏木が、変なことを言っている。






昨夜私は…、ベッドの上で、何度も眠りに堕ちそうになりながら…ひたすら本を読み更けた。

一方の柏木は、きっと捜査に明け暮れていて、多分…、そう、多分だけれど互いにもうヨレヨレで。


今、ここで話していることも、ちゃんと意することを話せているかだなんて判断は……一体、誰がつけることが出来るのだろう。


この事件が解決したらって、柏木は確かそう言った筈だった。



『そうだな…。朝はそこそこ早く起きて、取り敢えず出勤。』

それは、プライベートの話じゃあ、ないの?




『デスクに座ったら、妙な体操しているヤツを背後から視姦して…』

それ、私がその気配をいつも…背中に感じていた。




『昼は食堂で漫談している寂しいヤツの話相手になってやろうか。』

食事は1人で摂る主義だって言ったのに。
なのに…柏木は、今日来るのかどうかって…少しは考えたりしていた。



『…で、夜は助手席でタバコふかして帰る。』

誰の車に、乗るつもり?
アンタは、助手席のシートを下げて…、自分が居たっていう、その証拠を、その…香りを、平気で残していくのだろう。



飄々と、平然と語るその横顔に、意地の悪さなど…微塵も感じさせないような、穏やかさが…あった。


壁に寄りかかって、天を…仰いで。
まるでその光景を、思い描いているかのように…都合よくも、見えてしまう。




「……。……アンタ、徒歩でしょうよ?」

ついて出た言葉は、その幻想を打ち砕くような…可愛げもないひと言葉だった。


「まあ、そうだけど。」

返って来た返事で、現実を…突き付けられる。






「……けど、誰かさんが…、車に乗せてくれるんじゃないの?」




『誰かさん』と言いながら、ヤツが今視界に捉えているのは…、紛れもなく、私。

真っ直ぐに、意抜くような目付きして。
『アンタしかいないだろ』って、目がそう…訴えている。



いつかアンタが言っていた。
『男ってのは縄張り意識が強い』、と。

私の隣りに柏木が乗る。
ソレって。それって、つまり……?





小さな動悸が、次第に早く、トカトカと奏でる。



「……て、言うのが…俺の予想。」


「…………。」

「……おかしいって思う?」


ううん、ちっとも…思わない。


「公私混同してるような気がするけど、俺の日常が…ちょっとだけ変わる。今よりもきっと、ずっと…刺激があって、楽しいって。」



変だけど、変じゃあない。
だって、可笑しいでしょう、私。

容易に…妄想出来てしまうんだ。
柏木が言う、そんな未来を。


















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