恋の捜査をはじめましょう
ヤツは人差し指を突き立て…その先端を、ゆるりと下降させると。
私へと向けて、ピタリ、と動きを止めた。
「な…、何…。まさか柏木さん…私を犯人だって言いたいんですか?」
じり、じり、と…にじり寄る指。
私の背後は、既に壁。逃げる場所など、初めから…、ない。
まさかの目潰しなどされるんじゃあないかと、あり得ない想像を掻き立てられて……
つい、両手を上げる。
やましいことなど一切ないのに、降参ポーズ。
やがて…ヤツの指は、二本でピースサインを作り、それを、そのまま……
私の目の、
目の……下に。
次の瞬間には、びろーんと下方へと引っ張られた。
「いてて、ちょっと、何?!」
一気に乾いた目から、意図せずともじんわりと涙が浮かんだ。
「アンタの目の下。…『おおぐま』がいる。」
「………?!」
ポロリと勝手にこぼれた雫…。
ヤツは指の甲で、それを拭うようにして掬い上げると…。
そのまま、自身の口元へと運ぶ。
「悪かったな、こんな消えそうもないクマなんて作らせて。」
全身に、ゾクリと電流のようなものが走った。
私の涙を、口にそっと触れる程度に…含んで、クスリと妖艶に笑ってみせるから…。
「……でも、いつも…アンタを見てる。何処に居ようが、何をしてようが、勝手に目に入って来るんだから、仕方ないよな。」
「…………。」
「ソッチも…、見てろよ。アンタのお陰で見えて来た。…未来(サキ)が。」
柏木は、そう告げて…私にくるりと背を向けた。
ヤツの瞳の奥に宿った、静かな…闘志と、一縷の希望。
未来(サキ)が見えて来たと、迷わず進めた…歩みは。
その、道の先には…一体何があるのか。
私はヤツの辿り着く先で、隣りに…立って。
その瞬間を…見届けることが出来るのか。
ここは、正念場であろうと…、ぎゅっと拳を握りしめたのだった。