恋の捜査をはじめましょう
寒い……。
ああ、爪の先までみるみる…冷えていく。
今頃署では…勝手な行動に出た私に、署長がオカンムリであろう。
若気の至りでございます。
そして、後悔先立たずとは…正に動いてみないとわからないものでして…
私は今、猛烈に後悔している。
「何で…、何でなの?!」
シャコシャコ、と足が空回る。
ビュンビュンと、風を切る。
風っていうより…寒風を切る!じゃなくって、切り裂かれる、だ!!
「何でなの?!」
『おいおい、そのペースではタスキ繋げねえーぞ』
並走したパトカーから、柏木の激が飛ぶ。
拡声器なぞ使って…その声は嫌でも届き、苛立ちを増長させた。
タスキ…?
なんのこっちゃとツッコミたい所であるが、残念ながら…察しがついてしまう。
長く続く、上り坂。
気分は箱根の山を駆け走る、5区のランナー。
『ヨッ、山の神!』
助手席に座る藤橋主任の、豪快な笑い声が…風に乗って響き渡る。
そう。
私は今、この寒空の下を…自転車にまたがって、坂登りしている。
「アンタねえ、だったらせめて白バイで追いかけて来なさいよ」
『嫌だね。寒いじゃん』
「どの口が…そう言うのよ~!」
叫ぶ側から口の中がからっからに乾燥して、呼吸が苦しくなる。
こうなると…相手にするのが、どんどんアホらしくもなる。
地元民は冬場は足を踏み入れない、この小高い山の…坂道。
なのに、綺麗に整備されてるということは…
あらかじめ、この為に除雪排雪作業を依頼していたのだろう。今年の雪の少なさも相まって、通行可能な状態だ。
そして私がまたがっているのが、迫田くんの電動アシスト付き自転車と同タイプの…自転車。
なぜ山を登るのかって?
それは、昨年末の状況に…
事件の真相に…迫る為、らしいが
「箱根はニューイヤーだし!」
『6区は俺が走ってやる。ガンバレ』
棒読みだし!
事件は、年明け前に遡る。
火災があったのは、一軒のラーメン店兼住居。
当時家主が不在の…留守宅。
出火原因は、洗濯物の落下によるストーブ火災と思われる。
灯油は少なく、火も消したと証言されたストーブの火が燃焼を続けていたのか。
はたまた、例のトラックの電波が原因で着火したのか。
人為的な火災か
過失であるのか、
まだ、はっきりしない部分も…あった。
通報があったのは、現場から2キロほど離れた場所…
そう、この小高い山にひっそりと設置されている、公衆電話。
なぜ、こんな場所からの通報であったのか。
深夜帯に、誰が…そこに居たのか。
謎がいっぱい残されていたのだ。
ぐねぐね曲がる急勾配。
…にも関わらず、久々に漕ぐ自転車に、足が悲鳴を上げることはない。
はじめからそうだったのか?太陽が顔を出し、今度はただただ、暑い。
じんわりと汗をかいて、上着を脱ぎたくなるくらい。それだけが…とにかく、辛い。
しかし・・・女の私でもここまで楽に登れてしまうとは、ナイスアシスト!と言わざるを得ない。
何とかたどり着いた、道途中の広場。
ポツン、と建つ屋根付きの電話ボックスは少し雪に埋もれ…
崖の落下防止用の木の柵も、同様だった。
当たり前だが…人っ子1人とおらず、閑散とした空間。
若干よろつきながらも、ボックスの近くへと…自転車を立て掛ける。