恋の捜査をはじめましょう
私と藤橋主任も、柏木に続く。
白く染まった街を一望出来る、小さいパノラマ…。
太陽の光で、雪がキラキラと…美しさを演出している。
ごほうびを貰ったような…清々しい気持ちにも、なる。
「心が洗われるな」
藤橋主任は、右手を空に翳しては…目をキュっと細める。
「捜査していると、視野が案外狭くなるもんだ。一点を注視してばかりじゃあ気づけないもんもあるワケだ」
「そうですね。冬は…初めて来ました。まあ、必然的に来れない訳ですけどね」
通行止めになっていなくても…例年なら雪の多さに来ようだなんて思えない場所だ。
「鮎川。地元の人間は、よくここに来るの?」
ここでようやく…柏木が口を開く。
「夏場はまあ、割と…?一応穴場で通ってて、若者が車でチラホラ来る程度じゃあないでしょうか。ほら、街からの近場で夜景見るには…」
「来たことがあるって発言だな」
「ええ、それは…」
「まさかまーた元彼?」
「……黙秘します」
「なる程、じゃあ多少なりともアイツに土地勘もあるってこと」
「まだ彼を…疑っているんですか?」
「いや?けど、随分と交わる点が多いのも事実」
「……偶然です」
柏木は、ここで…黙ってしまった。
情がある、庇いたい、
それは…元彼であると同時に、それ以前に同級生でもある。
…当たり前のことだ。
ヤツの口元からフワリと…白い息が吐き出されて。
それから…ゆっくりと景色を見渡していく。
「街灯もない。監視カメラなんて…ある筈もない。冬の真夜中に…証拠が残るのか?」
「………」
「けど、冬の澄んだ空は…綺麗なんだろうな」
「……?」
「街の方は街灯も、コンビニやら24時間営業している店だってあるだろう」
「はあ…、まあ、だから街は完全に暗くなることはないでしょうから」
「加えて、女のアンタでも…無理なく、そう時間はかからない距離」
「……うん」
柏木はポケットから自身のスマートフォンを取り出すと、それを前に付き出して…
左側から右側へと、ゆっくりゆっくり…移動させる。
画面には、ぼんやりと映し出される…雪景色。
「これでは、見えないか」
藤橋主任はスマフォの画面を覗きこんでは…首を横に捻る。
「何が?ですか?」
「火災現場だよ。ズームして見てみたんだろ?」
「ええ。」
柏木は小さく頷いて、それから…今度はパトカーから大きな望遠鏡を持ってくる。
何やら三脚のようなものまで準備して…設置を終えると。
「こっちは完璧に見えるんですけどね」
なんて、またふうっと息を吐いた。
大体の方角がわかってれば、火の手に気づくことは…容易だろう。
ただ、問題はそこじゃない。
「ハッキリと出火場所を特定するのは…さすがに難しい。鮎川、覗いてみて」
「ん?どれどれ?」
……おや?
おやおや?
望遠鏡から目を離し、今度は肉眼で…比較的近い建物を凝視する。
それから、もう一度望遠鏡を覗き込んで…
「……逆さま、ですね」
「ん。」
「それだけじゃないな。左右も反転してる」
「……ん?あれ、ホントだ」
上下左右の反転した…景色。
「天体望遠鏡だと、こうなるか…。空には最適なんだけどな」
「普通の感覚であれば、興奮状態で通報するでしょう。よっぽど冷静じゃなきゃあ、正確な位置伝えるのは…困難かもしれないですね。」