恋の捜査をはじめましょう
今度は藤橋主任が、何やら持ってくると…

またじいっと、街の方角へとそれを向ける。


「見え…なくもないが、かなりぼやけるな…」

うーんと唸る、主任。
彼が手に持っているのは、双眼鏡だ。

「晴れた上に、よっぽど大気がクリーンな状態じゃないと…厳しいかと」
一方で冷静に分析する…柏木。

「つまり柏木係長は、犯人がここから火の手が上がるのを見ていたと推測しているんですか?」

「可能性の1つに過ぎないけどな。ただ、天体望遠鏡は流石に厳しいか」

「なぜ?」

「さっきチャリに乗ってみて、誰にもバレずに持ち運べると思える?」

「無理ですね。でも、車なら…」

「ここに繋がる道で、車が通れるような場所にはいくつか監視カメラが設置してある。ほとんど通ってない上、全部完全シロ…、だ。それに、そもそも車に乗れない筈」

「……?」

「ああ、無免許でも運転可能なのは勿論だけど…置場所ってもんが」

「……。」

「双眼鏡でも、頼りなさは否めないし…、それに」

「『それに』?」

「空には、向いてない」

空……?

「うーん…、そうだなあ」
藤橋主任もウンウン、と首を縦に振っている。

「んー…、夜にもう一回来るかな」

「付き合いたくはないが…、付き合う他ないか」

ガックリと肩を落とす主任だけれど、そんなに憂鬱そうに見えないのは…人柄かな。


「ここはさぞ星空も綺麗なんだろうな」

これは、柏木2度目の台詞。

空を見上げて。ヤツは、松本くんを真似るように…指で『カメラ』を作る。

「おおぐま座は、……ここからでは見えないか」

「どうなんでしょう?冬の星座と言えば、やっぱりオリオン座ですかね」

「……ん?」

「まずは、3つの等間隔に並んだ天体を見つけて、それから…赤い星と、白い星も目印になります」

「詳しいな」

「見上げましたもん、眠い目擦ってさ…、誰かさんのお陰で」

「案外ね、図表で見るのと違って…大きく感じるんですよ。当たり前なんですけどね、広く見渡さなきゃあわかんないと言うか…うーん、説明するのが難しいですけど」

「昔…星座版っていうの?アレ持って探したな」

「宿題でありましたよね。でも、頭上には無限の星があって…方角とかわからなくて、結局お父さん頼りだった記憶が」

「俺は面倒になって、星座版に描いてある通り真似して描いて、それを提出した」

「えー!なんとロマンのない少年だ…」

「バレたけどな、ソッコー。そもそもその日は曇ってて…俺がスケッチした時間帯には見えなかったってオチ」

「ズルはバレるもんですね」


見てみたいもんだ。
先生にバレて、焦る柏木少年の姿を…。



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