恋の捜査をはじめましょう

この日、1時間程の残業を終えた後…。
珍しく、早めに帰宅することができた。

帰宅途中で立ち寄った…コンビニで。
『菜の花とベーコンの和風スパゲッティ』を購入し、静かな部屋で一人…春の味覚を…実に地味に、味わった。


『一人に慣れてて落ち着かないってだけだろ。』

『おひとりさまでも、そんな余裕があるんですね。』

途端に。ヤツの台詞が…脳裏で再生されて。

「………ムカつくっ!!!」

近くに置かれたクッションを…、その、当て付けに。ポイッと遠くへと投げつける。

その通り過ぎて…反論できやしない。


この、どうにかしたい感情を…ぶつけたくても。近くに…ぶつける相手などいない。

虚しさが、どんどん積もる…だけだった。




夜……布団に入ると。


何故だか、無性に…人と話したくなった。


携帯を片手に、アドレス帳の一覧を…見ていく。

こういう時に…頼りたくなるのは、自分に似た境遇の…友人。


数回コールが鳴った後…、運よく、相手は電話に出てくれた。




『潤~?久しぶり~!』

「愛美、元気?今大丈夫?」

『おう、今外に出てきた~!』
お相手は…、少々テンションが高い。
どうやら、酒が入っているようだ。

「飲み会?」

『うん、仲間内で歓迎会。それより、珍しいね、どうしたー?』

酔っぱらっていても我を失うことはない…強者。

電話相手の…日向愛美は、現在他の警察署の生活安全課に勤務する、いわゆる…同業者で、それから……

『あ。柏木が今日付けでそっちに赴任したでしょー?びっくりした?』

そう、警察学校時代に再会した幼馴染みでもあり、同期でもあり…大親友だ。



「愛美知ってたの?」

『まあねー。』

「なんだー、教えてよ。」

『守秘義務がございますので。』

「……あ、そう。」

『知らないのは、潤くらいだよ。』

「………………。」

自分だけ…。
まさかの、置いてけぼり…?



少し、妙な…気がした。

同じ教場で苦楽を共にしてきた私達は…、絆も
強く、卒業してからも、1年に1度、集まれる者同士が…集まって。飲み会の場を…設けていた。

私や愛美も、参加率は…高くて。
かつての仲間たちと…昔話や、それぞれの配属先での話で盛り上がったり、情報交換をしたりしている。

……が、

柏木が…その場に姿を現したことは…ない。
卒業以来、私は…連絡をとったことも…なかった。

情のない、冷たいヤツだ、と罵ったことさえある。

なのに――…、だ。


みんな何故…、ヤツの動向を知っているのか――…。


私は一通り…、今日の愚痴を愛美に話すと。

彼女は…さも可笑しそうに、電話先でケタケタと笑っていた。

『……で?柏木、かっこよくなってたでしょー?』

『変わんないね、アンタ達は。』

「………そりゃあ…、そうでしょう?」

『顔を合わせりゃあ喧嘩ばっかり。その癖、教官の前じゃあ立派にしちゃってさ。なんだかんだ公私共々楽しそうにしてたじゃない?』

「……いや?あそこでは、プライベートなんてあったもんじゃ無かったじゃない。それに、アイツには…、どれだけ振り回されたことか…。全く先が思いやられるよ。」

『………ふーん?まあ、彼もああいう人だし、興味がないことには…見向きもしないじゃない?よく言えば、マイペース。悪く言えば…自己中。』

「それそれ!」

『自分のペースに巻き込もうとしてるってことはさー……。………おっと…、いやいや、まあ、せいぜい踏ん張りな?』

「………?うん?」

『しかし、面白いことになってきたなー。』

「……なんか…、楽しんでない?」

『いーじゃん、コンビ復活。ネタ尽きないだろうなあ。』

「………コンビって。」

『我々同期メンバーは、その重大事件に捜査本部を設置しましたので…報告…怠るなよ?そいじゃーね。』

「……はあ~?!」っと、突っ込みを待つことなく。

親友は……アッサリと電話を切ってしまった。




「………。……はいい?」



消化…不良。

結局モヤモヤとした気持ちのまま――…
何もすることのなくなった私は。

固く目を閉じて…

安眠を…促したのだった。

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