恋の捜査をはじめましょう


柏木との再会は。

私にとって、きっと……悪夢で。

次に目を覚ましたら…

やっぱりアレは夢だった、と……笑って終わるオチが待っているのかと…思った。


しかし……

ようやく訪れた…夢の中では、
警察官としての第一歩、警察学校での授業風景やら、訓練の様子やらが…ぼんやりと投影されていて。

その景色の中に。当然のようにして…柏木晴柊の姿が、とけこんでいるのだった。


愛美が証言するように…、そう、
私達は…罵りあって。けれど…時には、チームワークとやらを発揮して。

そうやって…過ごしてきた。
それが、当たり前の…日常。

本当に、身構える程…ヤツを嫌っていたか?




夢は…あくまでも夢であって。
現実に起こったことを…そのまま再生しているとは限らない。

何処かで…捏造しているかもしれない。

けれど………1つだけ。

はっきりとしたものが…あった。



それは…
夢でも、現実とリンクした…光景。

柔科の授業…。
キツいと称されるこの科目が、私の一番好きな科目で。

日頃の鬱憤を晴らす…良い機会でもあったから、その時間は、もて余す体力を…大いに発揮していたようにも思う。

手合わせの相手は…、勿論、女性警察官。

合気道を習っていた私は、多少の自信を持っていて…

相手に合わせて、加減することも…容易ではあった。



逮捕術の…訓練が始まった。

これに関しては…私も含めて皆、素人だった。

けれど……、


大柄の女性を、いとも簡単に「小手返し」した…私に。

意外な相手が…拍手を送ってきたのだった。

それこそが。
柏木…、だ。

普段けなされることはあっても、称賛を浴びせられるのは…初めてで。

大きな掌を…つき合わせるその男の様子に。
むず痒い思いを…したものだ。


・・・が。その拍手は、規律を乱したことで罰の対象となり・・・

連帯責任で、腕立てする羽目になってしまった。




訓練が終わり、移動の時だった。

「鮎川」

背後から声を掛けられ、振り返るとそこに・・・
ヤツがいた。

「お前……」

何を…言われるのか。
少々…ビクついて。

その、大きな手が…にゅっと伸びて来たとき。
私は…思いきり、目を瞑った。

頭に乗せられた…その手は、乱れた私の髪の毛を更にめちゃくちゃにした後、最後に…額を軽く弾いて。

「スゲーな」

たった…、一言。

そう、たった一言だけ。
意地悪でも何でもない…ストレートな感情をぶつけてきたのだった。

大きくて…、力強い…男の手。

私にはさほど…取り柄もなくて。
馬鹿力だと…言われると思いきや。

「お前に敵うヤツ、いないかもな」
サラリと、そう告げた。

これには、流石に…拍子抜け。


初めて対等な立場で、私を評してくれたのだと…思った。

何をしても、ヤツには敵わなくて。劣等感を抱いていた私には…衝撃のシーンだった。

それは――…

私のヤツへの評価にも、多少なり…変化を与えた。

いざ…対峙すると。
あの時、頭上に降りて来た…生温い感覚が…甦ってきて。

妙な戸惑いが生じた。

絡まれる度に、ただ、話す度に…
私はどんどんどんどん反抗的になって。

ヤツが、それを平気で…あしらって。

それにまた…、苛立って。
言葉の一つ一つを…素直に捉えることが出来なくなって。




ヤツを警戒するようになったのは、きっと。

それが――…きっかけだった。

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