恋の捜査をはじめましょう
背後に感じる気配で、それが、現実味帯びて来る。
止まった…足音。
「おい。」
と、そんな声と同時に。
肩にのし掛かる…重み。
私は、瞬時に肩に手を回して…その、手を掴みとるとほぼ一緒に。
得意の小手返しをかけに…出た。
ところが。
相手を確認するどころか…それを力任せに返され。
脇の壁に…どん、と頭をぶつけた上に……
完璧に背後を…とられてしまった。
「公務執行妨害。」
低い声が、耳元で…囁く。
背中にとられた私の手首を、相手が…8の字になぞって。手錠を…描いていく。
こんな屈辱的な…行為。
もし、相手が…ヤツじゃあなかったら。叫び声を…上げていたかもしれない。
「……柏木。なんの…真似?」
「…………。……『警察』?」
「……………。」
囚われの身でなかったら、一発お見舞いしたいところだ。
「流石、県警逮捕術大会の覇者。掛けに来るのが早いな。」
「……こういったケースに対応するために訓練しましたから。って、何で大会のこと…」
「でも、……惜しい。」
「はあ?」
「相手が俺じゃなければ、倒せたのに。」
「今のは、油断して……」
「甘い。一瞬の隙が…勝敗を決める。今の状況で油断出来るほど、アンタは強くない。」
「………うるさい。……もういいでしょ、離して。」
「まだ公務中。」
「は?」
「アンタさ、ドアくらい…閉めていけば?どれだけ警戒心が無いのか、よーくわかるな。」
ん?ドア?
「もし、本当に侵入者がいたとして。まるで『どうぞここに入ってください』って言ってるようなもんだろ。でなくても、重要な事件を扱ってるんだ。もう少し、慎重に行動しろ。」
「…………。………すみません、以後……、気をつけます。」
ここは…素直に。自分の非を…認めた。
掴まれた…腕は。
握られたその感覚で…、相手の強さが…分かる。
……そうだ…、昔、アンタに言われたことがあった。
「お前の相手になるヤツ、いないかもな。」って…。
私は、てっきり誉められたのかと…思ってた。
でも。
違ったんだね。
アレは……。それに、自分を該当させて居ないだけで。あくまでも…上の立場から言っただけだったんだ。
今更ながら…そんなことに気づかせるなんて。
悔しくて…情けなくて。涙が出そうだ。