恋の捜査をはじめましょう
掴んでいた私の腕を…離して。

柏木はまた、足音を鳴らして…ここから立ち去って行く。



「………待って。」

私は、ようやく…振り返ると。

ヤツの背中に向かって、ポツリと…呟いた。


「……何なの…、アンタ。何がそんなに気にくわない?私、アンタに…なんかした?」

足音が。
ピタリと…止む。

「………。いや。何もしないから…だから、気に入らない。」


こっちへと振り返った柏木は。
蔑むでもなく、咎めていりようでもなく、気のせいか……あまり、勢いが…ない。

「………。え。何それ。」

「そうだな…、例えば。こっちが話しかけなきゃお前は話もしてこないだろ?」

「……………。」


うん…、その通り。

「もっと普通に出来るだろ。万年思春期かよ?…大体そんなんだから、男にも振られる。」

「ちょ…、アンタ、いつの話して……」

「遠い昔。警察学校にいた頃、そんな話してただろ?」

「……したけど…、アンタにした覚えは…」

「ザマーミロって思ってた。大体、待つばかりで上手くやっていこうだなんて…無理だろ。」

「……………。」

柏木は、1歩、こちらに歩んで…
また、足を止める。

「警察官の相手はそれなりに理解ある人じゃないと…続かない。それを解ってて、あの時…俺はアンタに言ったんだ。」

また…1歩。

ゆっくりと。確実に…、私との距離を…詰めていく。

「………『あの時』?」


「覚えてないだろうけど…。アンタの相手になるヤツ、いないって。勿論、例外もあるけど。」


「………………?」

それって…、逮捕術の話じゃあ…なかったの?


「裏を返して考えれば、以外と簡単に答えは見つかるけど…、な。例えば現に、こうして…アンタを捕まえられるヤツもいる。」

「………は?」

「まあ、ない頭でよーく考えればいい。…久々の再会にも気づかないわ、ましてや…恩人に対しての仕打ちがこれじゃあな。いじめたくもなるっての。」

すぐ近く。
その、距離から……。

柏木の大きな手が、こちらへとさし迫って来る。


そんな…ヤツの行動に。

私は目を見張るようにして…その行方を追っていく。


私の頭の上に置かれた手は。
ちょっぴり雑に…かきみだして。

最後には、額を思いきり弾いては…離れていった。



「……柏木?」

久しぶりの…感触。

何だか…、おかしいな。
名残惜しいとか…思ってしまった。





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