恋の捜査をはじめましょう

一課の部屋に戻って来た私達は…会話をするでもなく。

ひたすら、カップ麺を…啜っていた。

と、いうのも。腹が減ったと言う柏木に…、私のストック用のそれを譲ってやった結果だ。

離れた席で…黙々と。

おかしな…光景だ。

ついさっきまで、すぐ近くに…居たのに。


「………たまに食うとうまいな。」

あ。しゃべった…。

「アンタのお口には合わないでしょうからね。」

「………あ?」

「天丼!……好きなんでしょう?あれ、結構高いし…あんまり注文する人、いない。」

「……………。アンタ…、アホだな。」

「え?」

「天丼が好きだと誰が言った?」

「………そちらでしょうよ…。」

「……言ってないな。」

「言ったよ!もう忘れたの?ボケるにはまだ早いでしょ。」

「アンタにソレ言われると…何かムカツク。」

ヤツは…おそらくもうほとんど残ってないであろうカップ麺をもって。

私の隣りのデスクに…ソレを置いた。



「………何…?」

黙ったまま…椅子を引いて、そこに腰かけると。

麺を啜る私の横顔を…

じいいっと穴でもあきそうなくらいに…凝視している。

「嫌がらせしてみた。一人で食べるのが好きなんだもんな。」

「…………。」

…腹黒め。


「そろそろ…時効かな。」

「……?何の事件?」

「……。『天ぷら』。」

「……………ハ?」

「よーく思い出せ。俺、『天丼』が好きだなんて…言ったか?」

「……ふーん…、ようやく認める気になった?」

「馬鹿。俺が好きって言ったのは……、『天ぷら』だ。」

「…………。…………あ。」

「そっちこそ、思い出したようだな。…思い込みは、捜査の妨げになるぞ?」

「うるさいな。天ぷらも天丼も同じようなもんでしょう?屁理屈男っ。」

「違うね。天ぷらは…塩派。甘いタレでしなった衣は…むしろ苦手。」

「ワガママ。だったら食べなきゃいいでしょうよ。」

「まあ、その通り。」



………ん?待てよ。
あの時…、真向かい側に座った…柏木。

天丼を口に入れる所なんて…見たか?



あの時のシーンを。
混乱する頭の中で……もう一度、再生する。

私は…カレーを食べていて。その時…ヤツは?


「…………あ。」

そう言えば…衣ばかり突ついてた。

おまけに、その後…離れた席で食べていたから。

あの時、どういう顔して食べてたかなんて…知らない。


「……まあ、確かに時効だよね。今更カミングアウトされても…別に驚くようなことじゃないし。」

「………だよな。……で?アイツの取り調べには『天丼』出してやった?」

「アンタ『カツ丼』が定番だって言ってたじゃない。そもそも…出すわけないでしょう?………ってか、『アイツ』って誰?」

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