恋の捜査をはじめましょう
「俺らが共通で関わった事件の容疑者なんて…一人だけじゃん。そっちこそ、忘れたの?」
「…………ん?」
「『テンプラナンバー男』。天ぷら出してやったら喜んだかもな?」
「………ちょっと…、待って。どうしてアンタが……」
「容疑者取り逃がし1歩手前の…小手返し。鈍ってねえなって…思わず拍手が出たもんな。」
「……拍手…。」
柏木が…、あの場に…いた?
……拍手した?
「…………花を持たせてやったんだ。…感謝しろよ。」
まるで…走馬灯のように。あの日の記憶が、一気に駆け巡っていく。
「アンタに怪我がなくて…良かったよ。」
事故現場に現れた…一人の男。
ニット帽に…マスク。
高い…身長。
動揺する私に代わって…場を上手く仕切っていた…お兄さん。
「……襟足…。」
ぴょん、と跳ねた襟足が。
彼の…特徴。
「………アンタだったの?!」
「……お。ようやく気づいたか。同期であれだけ一緒に居たのに…お前は冷たいヤツだよな。」
「だって、アンタ昔…ほぼ坊主だったじゃない!」
「つーか、あの日は帽子被ってたし、髪型も何も…。そっちこそ、若かりし時はモンチッチヘアーだったろ。」
「言ってよ!全然気づかなかっ…」
「言ったら。お前…絶対意固地になって、暴走するだろ?」
「それでも。言ってくれたら…」
「…………。うん?」
「礼くらいは言った。」
「……それだけかよ…。」
これには…、流石に柏木も、苦笑い。
「アンタの手柄になったはずなのに。」
「手柄どうこうには…興味なかったんだよ。」
ヤツは、ぎいっと音を鳴らして。椅子を…回転させると。
私の方に…向き直した。
「ただ、アンタが居たから…。あれから…どう成長したのか、見て見みたかった。言っとくけど、あの時は…警察として行動したわけじゃないから。」
「…………。」
「アンタが…困ってるから。初めて弱味を…見せたから。俺の意思は、そこに…尽きる。」
「それって…どういう…」
「ラーメン、…伸びるぞ?」
「もしかして、助けてくれたの?」
「汁吸いすぎ。不味そう。」
「ねえ!」
「うるさい。そこまで鈍いから、いい年してまだ独身なんだ。どうせ似たような別ればっかして、婚期逃したんじゃないの。」
「人のこと言えないでしょ!」
「男はいーんだよ。」
「男女差別!」
「なら、訂正。俺はいいんだよ。」
「屁理屈。」
「そうかもな。理屈あるし。成長したのはお互い髪の毛だけだったか。」
「私だって…ちゃんと考えてるんだから。」
「……………。」
「今は…いないかもしれないけど、恋愛に興味がないわけでも焦ってるわけでもない。上手くは言えないけど…、そういう相手は、自ずと見つかるものだって思ってる。」
「………。」
「……いつか…アンタにも紹介するよ。ただし、その時は…文句言わないで見守ってよ。」
「……相手にもよる。」
「父親か!」
「……違うね。だいぶ…ズレてる。」
「駄目だ…、アンタ相手してると…イライラする。」
「その割りには、だいぶ口利いてる。」
「それはそっちが……」
「それで、いーんだよ。」
「…………ん?」
「…だから。…… それが、いい。」