恋の捜査をはじめましょう
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「じゃあ…、放火の可能性はない、と?」
見解を聞いた柏木は…、僅かに首を捻った。
慎重に……現場の様子を見据えながら、疑いの念を…捨てられずにいる。
「断定はできないが、石油ストーブへの落下物による火災だろう。」
相原さんも、私に同調して…、答える。
「何者かが侵入した形跡は?」
「家中のドア、窓、全てに…鍵がかかっていた。部屋の西窓、北窓の外にも、怪しい形跡もない。外出後の侵入は…まず、ないと言って、いいだろう。だが、損焼のない箇所においては、幾つかの指紋と足跡が採取できた。とは言え…ここは国道沿いの店、不特定多数の客人が訪れているだろうからなあ…。人物の特定は困難、か。」
「…………。」
「腑に落ちない、って顔だな。」
相原係長は、柏木の肩をポン、と叩いて…。
それから……捜査に当たっていた鑑識に…一時撤収を命じた。
「……相原さん。」
「……?なんだ?」
「このストーブのメーカーと、特徴を調べていただけますか?」
「ああ。勿論そのつもりだ。」
「もし……、ですよ。もしも、この火事が住人の過失ではなくて、何者かによって…操作されたものだったら…。それは、放火として扱われるのでしょうか。」
「………。…さあな、ただ…、洗濯物をストーブの上に干していたという事実が…そこにあるからな。それに、事件性があるとて、確固たる理由に証拠がなけりゃあ…立件もできない。」
「……そうですね。」
彼は拳をぎゅっと…握って。
悔しさを…滲ませている。
いつも自信に満ちた柏木が…、こんな風に肩を落とす姿は…初めてだった。
「……柏木さん?」
何が彼をそうさせているのか…?
「ストーブの石油はほとんど残っていない状態だった。」
「…………。」
「出掛けに消し、それを婆さんと店主が再度確認している。」
「………………。」
「これが本当だったら、朝出掛けたのに…、出火するまでストーブの燃焼がまだ続いていたことになる。……矛盾…、してないか?」
「………確かに…。」
「それに…。消防に通報した人物が…特定出来ていない。なあ、鮎川。お前がもし、火事を発見したら…どう行動する?隣りの家から、煙が見えたと仮定して……。」
「………まずは外に出て…、大声出すかな。それから、携帯があれば携帯で、なければ近所に通報をお願いする。」
「………順序こそ多少変われど、大体は…、そうだろうな。」
「どういうこと?」
「通報に利用された公衆電話の場所が…特定された。」
「……うん。」
「それが、現場から数キロ離れた場所にあったんだ。」
「……?…うん。」
「一報では、火事の起きた位置を正確に…知らせている。はっきりと言いきるには、そこから煙がでているのを…直接目視したからだろう。ならば、近くに住んでる者と考えるのが妥当だ。実際、電話でも『ウチの近所』という言い回しで話をしていた。なのに…、だ。土地勘があるとすれば、公衆電話に真っ直ぐ向かったとして…どうしてもっと近くに設置された電話で通報しなかったんだ?」
「気が動転してたから…?その人は、自分が逃げるのに、必死だった。」