恋の捜査をはじめましょう
「それも考えられる。だけど…、近所の火事だ。余程情がないと…思われかねないな。」
「…………。」
「消防は着いて直ぐに消火にあたり…、店舗の焼失は免れた。これはかなり早い段階で火事が発覚したからだ。」
「車で移動したとして…60㎞/hで走行したとして、数分。けど、慌てていればそう直ぐに行動に移せないだろうから…実際にはもっと時間が掛かるはず。」
「近所っていっても…そう多くはない。しかも、機動捜査隊の聞き込み調査では…その時間帯、彼ら住民は誰ひとりと…外出していなかったんだ。仮にも、通報者がはじめから公衆電話付近にいたとする。なら、離れているのに…何でハッキリと出火場所が分かる?」
「…………!」
「そいつは…初めから…知っていた。その可能性が、否定できるか?」
「………柏木さん、じゃあ………」
「この火事の通報者が…何かを知っている。これは…過失を装った、犯罪。そう思ってる。」
夕暮れの…空の下で。
強い信念が宿った柏木の瞳が…黒こげた現場の惨状を、しっかりと映していた。
「待って、相原係長にそれを…」
「大丈夫だ。長年の勘を…侮ってはダメだろ。」
「……え?」
「あの人はもう、わかってるよ。」
そう言った柏木の発言を…象徴するように。
係長は…携帯を片手に、誰かに…連絡をとっていた。
「さて。これが、どう転ぶのか……。柏木、鮎川!お前らも覚悟しておけよ。明日から…本当に寝る間もないくらいに忙しくなるかもわからないからな。」
1度こちらへと振り返った彼は…、また直ぐに、背中を向けて。機動捜査隊の元へと…歩き去って行った。
柏木は…そんな係長の背中に向けて、敬意を払うお辞儀で…応えた。
綺麗な10℃の姿勢を保った…美しい礼だ。
私も、ヤツに倣って…お辞儀する。
「……アンタのその猫背、どうにかならねーの?」
顔を上げた私の前に、覗きこむようにして…柏木の意地の悪い顔があった。
「……………。」
美しいなどと…思ってしまってはいけなかった。見事に…隙をつかれる。
「疲れた顔してんなあ…。」
柏木の手が伸びて…。私の右頬を、人差し指で軽く撫でる。
「ちょっ…!」
「煤、付いてた。」
己の指の腹を見せながら…、ヤツはクスリと笑った。
「…………。相原さんが見てる。……それに、余計な世話だって何度言ったらわかるのでしょう…。」
「ほら、素直じゃない。だから振られるんだって。」
「………!何故それを…!」
「あ?相原さんから聞いた。」
「いつの間に…」
「ソレは守秘義務があるから。大体、ホシに勘づかれたら仕事になんねーだろ?刑事の聞き込みをナメんな。」
「ってか、違うし。こっちから別れ……」
「ストップ。もういいんじゃん、終わったことなんだし。」
「…………。」
自分から振ってきた話なのに!
「それより、どうやら長丁場になるみたいだから…イカってばっかいないで、体力温存しとけよ?」
柏木はそう言ったかと思うと…。
辺りを軽く見渡してから、私の掌の中へと…何かを押し込めた。
「ここの近所のばーちゃんがこっそりくれた黒飴。いや、正確にはポケットに突っ込まれたんだけど…。そのばーちゃん、捜査に協力的で、色々…話してくれて、俺、どうやら気に入られたらしい。これって…贈賄?」
「………。それはそれは…熟女にもおモテになるとは、羨ましい限りで。」
「ははっ…、確かに?まあ、同期のよしみだ。…それ、やるよ。但し…受け取ったお前も…同罪だな。煤ついた顔に…黒飴。うん、似合うんじゃね?」
ヤツの大きな掌が……
鑑識帽の下に被ったビニールのカバーをくしゃりと鳴らす。
覚えのない動悸が…胸にドクンと…ひとつだけ。
音を…立てた。
「…………。」
「消防は着いて直ぐに消火にあたり…、店舗の焼失は免れた。これはかなり早い段階で火事が発覚したからだ。」
「車で移動したとして…60㎞/hで走行したとして、数分。けど、慌てていればそう直ぐに行動に移せないだろうから…実際にはもっと時間が掛かるはず。」
「近所っていっても…そう多くはない。しかも、機動捜査隊の聞き込み調査では…その時間帯、彼ら住民は誰ひとりと…外出していなかったんだ。仮にも、通報者がはじめから公衆電話付近にいたとする。なら、離れているのに…何でハッキリと出火場所が分かる?」
「…………!」
「そいつは…初めから…知っていた。その可能性が、否定できるか?」
「………柏木さん、じゃあ………」
「この火事の通報者が…何かを知っている。これは…過失を装った、犯罪。そう思ってる。」
夕暮れの…空の下で。
強い信念が宿った柏木の瞳が…黒こげた現場の惨状を、しっかりと映していた。
「待って、相原係長にそれを…」
「大丈夫だ。長年の勘を…侮ってはダメだろ。」
「……え?」
「あの人はもう、わかってるよ。」
そう言った柏木の発言を…象徴するように。
係長は…携帯を片手に、誰かに…連絡をとっていた。
「さて。これが、どう転ぶのか……。柏木、鮎川!お前らも覚悟しておけよ。明日から…本当に寝る間もないくらいに忙しくなるかもわからないからな。」
1度こちらへと振り返った彼は…、また直ぐに、背中を向けて。機動捜査隊の元へと…歩き去って行った。
柏木は…そんな係長の背中に向けて、敬意を払うお辞儀で…応えた。
綺麗な10℃の姿勢を保った…美しい礼だ。
私も、ヤツに倣って…お辞儀する。
「……アンタのその猫背、どうにかならねーの?」
顔を上げた私の前に、覗きこむようにして…柏木の意地の悪い顔があった。
「……………。」
美しいなどと…思ってしまってはいけなかった。見事に…隙をつかれる。
「疲れた顔してんなあ…。」
柏木の手が伸びて…。私の右頬を、人差し指で軽く撫でる。
「ちょっ…!」
「煤、付いてた。」
己の指の腹を見せながら…、ヤツはクスリと笑った。
「…………。相原さんが見てる。……それに、余計な世話だって何度言ったらわかるのでしょう…。」
「ほら、素直じゃない。だから振られるんだって。」
「………!何故それを…!」
「あ?相原さんから聞いた。」
「いつの間に…」
「ソレは守秘義務があるから。大体、ホシに勘づかれたら仕事になんねーだろ?刑事の聞き込みをナメんな。」
「ってか、違うし。こっちから別れ……」
「ストップ。もういいんじゃん、終わったことなんだし。」
「…………。」
自分から振ってきた話なのに!
「それより、どうやら長丁場になるみたいだから…イカってばっかいないで、体力温存しとけよ?」
柏木はそう言ったかと思うと…。
辺りを軽く見渡してから、私の掌の中へと…何かを押し込めた。
「ここの近所のばーちゃんがこっそりくれた黒飴。いや、正確にはポケットに突っ込まれたんだけど…。そのばーちゃん、捜査に協力的で、色々…話してくれて、俺、どうやら気に入られたらしい。これって…贈賄?」
「………。それはそれは…熟女にもおモテになるとは、羨ましい限りで。」
「ははっ…、確かに?まあ、同期のよしみだ。…それ、やるよ。但し…受け取ったお前も…同罪だな。煤ついた顔に…黒飴。うん、似合うんじゃね?」
ヤツの大きな掌が……
鑑識帽の下に被ったビニールのカバーをくしゃりと鳴らす。
覚えのない動悸が…胸にドクンと…ひとつだけ。
音を…立てた。