恋の捜査をはじめましょう
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帰宅したのは…、夜の11時ちょっと過ぎ。
どんなに疲れていても、シャワーだけは…欠かせない。
脱いだ作業服は…現場の匂いが染み付いていて。火事現場特有の…焦げ臭さ。
髪の毛にも移るその匂いで…まるで自分が…燻製になっているような気分にもなる。
私はそれを、1日の疲れと共に…丁寧に、お湯で洗い流す。
明日は…月曜日。
いつも通りの、通常勤務。
「今日は…これでいいか。」
ストックしていた…カップ麺。選ぶにも…もうひとつしか残っていなくて、『忙しい』を言い訳に…色んなことを怠ってきたことを痛感する。
冷蔵庫の中身は無論、確認するまでも…ない。
カップラーメンをすすりながら…、テレビのチャンネルをころころと変える。
いつからか…、大好きだったはずの恋愛ドラマとは疎遠になって。
見ているのは、サスペンスやミステリー。
それから、ニュース。
夢見る時は…過ぎたのだ、と半ば諦めている現状。
「………。」
とは言え、途中から見ても…内容がさっぱり頭には入って来なくて、消してしまうこともある。
今宵は、まさしくにそんな感じであった。
真っ黒の…テレビ画面。
静かな住宅地に立つ…アパートの一室は。
とてつもなく…静かだ。
部屋の窓を…開けると。
今朝の喧騒は、何処へ行ったのか――…。
街は静かに、あたたかい光を…灯すだけだった。
冬の空気は…とても澄んで見えて。
それは、空に広がる星をより美しく…演出してた。
吐く息が…白い。
「もうすぐ…年が明けるのか。あっという間だたな――…。」
何とも慌ただしい1年だった。
本厄年と言うからには、それなりの覚悟は…していたけれど。
厄払いに向かう道中で…ヤツに再会するなんて、どんな因果だって話だ。
私は…部屋に戻って、コタツの上に転がっている飴玉を…指先で弄ぶ。
硬い包みが…かしゃりと音を立てて。それを何度か繰り返すと…、ようやく包みを開けて、黒くて、まるいそれを…そっとつまみ上げた。
本当に…何年ぶりになるだろう。
口の中に入れたそれは、
あっという間に…、深い甘みと、香ばしさ。
それから、ちょっぴりだけ苦味を…広げていった。
「…………。」
予想外…だった。
大人になると、味覚が変わるものだけど。
素直に美味しいと…思えるのだから。
それは……ちょっとだけ、ヤツに似ていると思った。
普段はぶつかってばかりで。口を開けば…毒を吐き。
だけど…、時々。そう、本当に時々だけど…からかうようにして、さり気に私を…甘やかす。
同期のよしみだと、彼は言うけれど。
この飴の、ひどく懐かしい香りは―…、柏木との古い思い出までもを…運んで来たのだった。
彼は、同期生で。
かつても、今も…仲間であることには違いはなくて。
意見を言い合える…ライバルでもあり、
それから。
それから……?
心の中に燻っていた感情が…
いつも、そこにあった。