恋の捜査をはじめましょう

それから、数分…

手を振りほどくタイミングをすっかり失って。
意気消沈。

掌に…汗が滲んで来るのが、自分で…分かる。


さて、どうしたものか…と考えていると、


「……俺も自転車買うかなあ…。」

突如…、ヤツがポツリと呟いた。

「車で通う距離じゃなくても、歩くのも若干怠いし… 。運動がてらチャリ通してるって若手も多いじゃん?こーいう電動式自転車なら、楽でいーかも。」

店の軒下に停められた、一台の自転車を…まじまじと見つめて、「うーん」と、悩む素振りを見せる。

「楽したら運動にならないでしょうよ。それに…もうすぐ雪も積もるし、今はかえって危ないでしょ。春にしたら?」

「それもそうか。だよな…、今日辺りチャリなんて考えただけで…身震いする。スピードも去ることながら、歩きとは比じゃねーよ。」

「そうだろうね。」

「とは言え、春先のソレと原チャリには要注意か。」

「……ん?」

「引ったくりの犯罪に多い上に、生活安全課に寄せられた不審者情報でも挙げられてただろ?爆走電チャリ。」

「ああ。」

「…愛美に言っとくか。引ったくりの犯罪の増加と注意喚起をポスターに載せとけばって。」

「…………。」

愛美…、ね。

そう言えば…、柏木、いつから愛美を…名前で呼んでるんだろう。

以前は…私同様、名字で呼んでいたハズじゃあ…なかったっけ。


「………。……私も、自転車通勤しようかな。」

「……?お前はいいだろ、車で。相原さん乗せてやれ。」

「………まあ、そうなんだけど…。」

アンタが…居た、そんな形跡を残して。
新たに香る…タバコの臭いに。

私が、柏木の存在を…意識してしまう恐れがあることが。

…解せないだけ。



それに…、だ。


同じ自転車通勤ともなれば、多少の共通項の話題も…できるだろう。


「………いや、その必要、全くナシ!!」

何故に、アンタとの会話を…弾ませる理由がある?

ブンブンと…首を振って。
自分の思考を…全否定する。


「………?…ふーん?じゃあ、たまに俺んとこも拾って。」

「……?!何で…そうなる?」

「いいじゃん。同僚だし、同期のよしみで。もれなく朝が苦手なアンタに、モーニングコールがついてくる。」

「……結構です。もう、起きれます。」

「朝イチのアンタ、無防備で…可愛いのに。」

「………………。」

今……何て言った、この人。


「そう、アレだ。はにゃ、ふにゃって言うヤツ。アレに似てる。昔、子ども向けの番組に出てた…」

「そりゃあまた、懐かしいネタをぶっ込んできましたなあ…。おーい!は〇まるですか。はに〇る王子ですか。」

「そう、それ。で、知ってた?アレ、最近また放送されてるって。」

「……マジですか。」

「それで…はに〇るの声が、どっかで聞いたことあるんだけど……。何かの…アニメだったか…。」

「あ。待って。微妙に…声、覚えてる。」


変だな、って…思ってしまう。
話題が…途切れても。

上手く…掌で転がされているように、次から、次へと…コロコロと話が展開されていく。


奇しくも…

同じ年…、
同じ職業。

そりゃあね、深く考えなくても、実は…共有できることって…

案外、多いのかも…しれない。
ただ、それをしようとしてこなかったって…だけで。


今日という日は、本当に…不思議な日だ。

こんな風に…コドモみたいに、柏木がちっぽけなことで…ムキになって考えこむなんて。

知らない一面、見せすぎでしょう?








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