恋の捜査をはじめましょう
店内には、お客さんが…びっしり。
入れ替わり立ち替わりといったところか、従業員も足を止めることなく…忙しそうに動き回っていた。
カウンターには、仕事帰りのサラリーマン風の…男性客が多く、ニッカポッカを履いた、若いお兄さんが…数名。
小学生くらいの子連れ客。
若い女性は…殆どいない。
「柏木、お茶と水、どっちがいい?」
「じゃあ、水で。」
「了解。」
私は、座敷を降りて…客用サンダルに履きかえると。
セルフサービスになってるウォータークーラーの元へ…向かった。
「…あ。ちょっとそこのおねーさん。」
コップに水を…注いでいると。カウンターに座る一人の客から、そんな声を掛けられた。
「はい?」
「悪いんだけど、ついでに俺らにも水持ってきてくれない?」
「…………。」
ニヤニヤとした…顔つき。
ガラの悪そうな……連中だ。
ここで、面倒など…起こしてはいけない。
そう悟った私は、ドン引きするくらいの満面の笑顔で……
「いいですよ、幾つ持っていきますか?」
などと…仕方なく相手になってみた。
「優し~、じゃあ、4つお願い。」
まだらに茶色がかった髪の…厳つい男と。
スキンヘッドに、ピアスをした…男と。
切れ長の目をした、華奢な…男。
私とそう背丈の変わらないくらいの、小柄な…けれど、その中では、一番落ち着いた雰囲気の…男。
おそらく、そいつらが…仲間…、か。
冷静に…相手を見極めに…入る。
店主と思われる、40代くらいの…タオルを被った男性が、こちらの様子を…窺っているようだった。
一方の柏木も、黙って動向を…見守っている。
ヤツの瞳が…私に訴えている。
『大丈夫か?』と…。
私は、小さく頷いて…。
男たちのもとに、コップを運ぶ。
食欲を誘う、ラーメンの匂いに…混ざって。
顔を近づけて来た男の吐息から、酒の…匂い。
「おねーさん、よく見ると…可愛い顔してんね。俺、奢るから…こっちで食べたら?」
コップをカウンターに置いた瞬間。
男のごつごつとした…硬い手が。私の手に…覆い被さる。
「サカキ~、顔がエロくなってんぞ。ごめんね、おねーさん。コイツだいぶ酔ってて。聞き流していいから。」
スキンヘッドが、諭すようにして…助け舟を出してくれたけれど。
如何せん…、どうにも頭に目が行ってしまう。
それもこれも…柏木のせいだ、クリ〇ンなどと…言うから。
ところが、サカキと呼ばれた男は…そんなこと、お構い無し。
なぞるように…手を撫でて来るから。
背筋から、ゾゾゾと…何かが這い上がってきた。
虫酸が走るって…多分、こういう感覚なのか。