恋の捜査をはじめましょう
我慢も…限界に達した頃。
「お客さん。ここはキャバクラじゃあねえんですよ。」
そんなお咎めの声が…、低く、重たく、店内に…響いた。
先程の…店主らしき男性が、茹で上がったラーメンをザルで…きりながら。
視線も合わせず、冷たく…言い放ったのだった。
「それから、姉ちゃん。セルフサービスってなってんだろう。余計な世話なんて焼くんじゃねえ。店の者の怠惰に思われちゃあたまったもんじゃない。評判、下げる気か。」
「……………。」
客に叱りを入れるとは…、なんとも男気ある店主だ。
それに…一連の動きを全く止めないところ…職人気質、なのだろう。
さて、多分、私を…助けようとしていたのだろう柏木は…、1度その場に立ったものの。仲裁に入ることはなく……
胡座をかいて、
更に……テーブルに頬杖をついて。
また、窺いモードに…入った。
サカキの怒りの矛先が…店長へと、向けられる。
「アンタ、誰に向かって言ってんの?」
「貴方です、お客様。」
「わかってんじゃねーの。俺はあ、お客サマ。アンタは黙って…客に媚びでも売ってりゃあいーんだよ。」
「…………。へい、ラーメン一丁。」
ドン、と音を立てて。
店主は男の前に…ラーメンを出す。
「お代はいりませんから、食べたらとっとと出てって下さいよ。お相手できるほど、うちの店は…暇じゃないんです。」
格好いい、と。そう思ったのは…私だけじゃあ、ないだろう。
それを代表するかのように、手を叩いて、店主の行動に称賛する男の姿が…あった。
「……ああ、柏木……。」
気持ちこそは…解る。
解るけれども……、それって、危険行為じゃあ…ないですか?
「何だあ、お前!!」
途端に、サカキは声を荒げて…柏木へと向かって、歩き出した。
心配を余所に…、柏木はなおも頬杖をついたまま。
「おやっさーん、辛味噌も早くお願いね。」
なんて…余裕の発言。
「待ってろ、ニーチャン。注文つっかえてっからよ。おら、お前ら…ボサっとしてんな。」
店主も店主で……サカキを完全に無視。
スッタフらに向かって…檄を飛ばす。
サカキを慌てて止めているのは…スキンヘッド。
どうやら、サカキ以外は…良識のある人間らしい。
「よお、お前ら。店出んぞ。」
小柄の男が…坦々とそう告げて、顎で…男どもに指示を促す。
意外な…力関係だ。
しかし、それでサカキが…収まりつかないのは、顕著であった。
「こんなクソみたいなラーメン、誰が食うってんだ!」
そう…言うや否や、ラーメンの入ったどんぶりを…思いきり床へと投げつけて。
スキンヘッドを払いのけると、カウンターから身を乗り出し…、
店主へと掴みかかった。
「よう。客人大事にしねえとなあ、ろくなことにならねーぞ?ネット上に悪評は流れる、下手したら…あの店みたいに、火がつくかもしれねえなあ~?まさに、炎上…ってか。」
この発言で。
柏木の表情が…一変する。
それから、これまで…平静を保ってきた店主までも、血の気たっぷりに…男を睨みつけた。
「……アンタ…、今何て?」
柏木が言いたいことであろうことを…そのまま、店主が…絞るようにして…声に出していた。
「店も焼けやあ良かったんだよ。なんなら…俺がしようか?」
「よせ、サカキぃ!」
「怖いんだろ?次はどこが焼けるのか…楽しみにしてろや。」