恋の捜査をはじめましょう
ぽたり、ぽたりと……
カウンターの上に、雫が滴り落ちる。
「貴方こそ、何様…ですか?食べ物を粗末にした上、下品な脅し…。それらが…罪にならないだろうと、タカを括ってらっしゃるおつもりかもしれませんが……、店主さんの男気の足元にも及ばない、いや…、その、割れたどんぶりよりもどれだけちっちゃい器の持ち主かが…よーく、わかります。」
「………は?」
「柏木…、受け取って!」
力の抜けた男の手から…ライターを奪って。
柏木の方へと…投げつける。
「ナイス…、相方!」
見事にキャッチした…柏木は、それを自身のジャケットにしまって。
「皆さん、店を出てください!もう大丈夫ですから、警察への通報はしないようにお願いします。」
客に向かって、頭を…下げる。
そうだ、懸命な判断かも…しれない。
こんな小者の暴力に屈して、署の皆に…ご足労頂こうなどと、甘えた考えは…
少なくても私には、皆無だ……。
「このアマ……、女だと思って優しくしてやったのによお…。」
凄まれているのに、河童のような…脳天だけがペタンコになった頭に。
私が…反応しない訳、ない。
「…………。」
何を連想したのかは…お察し頂きたい。
なんて…呑気に考えるも束の間。
サカキの手が…私の腕を掴んで、ぎりっと…力でねじ伏せられそうに…なった。
とにかく、ピンチであることには変わりないのだから…。
体が…勝手に、動いた。
とっさに、小手返しの要領で…相手を怯ませると。
急いでカウンターから飛び降りて、
あの人の元に…走った。
それは…、真っ直ぐに。
柏木。
アンタの…元に。
柏木は…両手いっぱい広げて。
全身で、私を…受け止めてくれた。
すっぽり埋まった…柏木の胸の中で。
ヤツの心臓の音が、私よりも早く…トカトカと鳴っているから。
余計な心配をかけたのだろう…と……、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「お前はなあ、どうしてそう、暴走するかな…。」
「………ごめん。でも、アンタが居るから…大丈夫だって、どこか甘い考えがあったのかも。」
「……アホか、お前こそいっぺんハゲろ。」
「苦しいよ…、柏木…。」
アンタの腕の中は、本当に…力強い。
ちょっと待て。
ねえ、流石に…
「馬鹿ヤロウ…、抜けられないじゃあないか……!」
ヤツの胸元で…、フガフガ喘ぐ私に。
「さて、と。恋人ごっこは…ここまで、か。」
いつもの自信たっぷりな…発言が。
頭上に…降り注ぐ。