恋の捜査をはじめましょう
そう……、

例えば、煙草のことを…指摘してきたり。

突然、手を…握って来たり。


アンタのもとへ走っていった私を受け止めて、強く…抱き締めてくれたことも。

恋人同士のデートを装う為に…、「恋人ごっこ」を…演出じていたの?



「さあ、な。」

ああ、顔色ひとつ、変わりゃあしない。

本当、私はいつまで、この男に…翻弄させられるのか?



「…………何それ…。全く…も―…、変な誤解されちゃったじゃない。」



「別に一緒にメシ食うくらい、あるだろ。誰も本気でデートだなんて思わねーよ。何せ辛味噌ラーメン頼むくらいだし。」



「うっかりオチるとこだったじゃん。あー…はずかし。あー、ムカつく。」


「……そりゃあ取り越し苦労だったな、おつかれー。……でも。まあ、名残惜しいってくらいは…思う。」

「え?」


「だから…、あと少し。署に戻るまでは…。」


どこまでが…、本音で。

どこまでが……建前なのか。



けれど…、再び繋がれた手は、今日という日の…激動の…出来事を。

一瞬でも、忘れさせてくれる、不思議な効力が…あった。


ムカつくのと、ドキドキすること。

どちらも…同居している、妙な…感覚。


紙一重…。
私たちの、関係は……


もしかしたら、それに…近い?








二人が温もりを分け合ったのは…、一瞬だった。

そう……、ほんの…一瞬。


何故なら、

少し…離れた所から、緊迫した声が、次々と…響き渡ってきたのだから。




「何…、何か…あったのかな。」

柏木と二人…、顔を見合わせて。

声が聞こえた、その方角へと……視線を移す。


「嘘だろ……?」

柏木が、力なく…呟く。

それも…その筈だ。


風が吹き荒れる…黒の闇に。

燃え盛る炎と、立ち上る黒煙とが……見えてしまったのだから。


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