恋の捜査をはじめましょう
現場は、騒然と…していた。
近隣住民と思わしき人々が、一軒の住宅…、その、二階から…立ち昇る炎を、呆然と…見上げている。
消火活動を行っている者はおらず、家主で…あろうか、取り乱す老女に…、それを必死に制する…中年女性。
市内は、パトロールの強化が…強いられ、警察や自治体が、躍起となって再犯の防止に務めているのに。なのに…、だ。
たった今、榊を乗せたパトカーだって、近くを…通過していた。
私も、柏木も…、そう。
その、すぐ近くに…居たっていうのに。
それを…嘲笑うかのように、隙を…つくようにして、
何故、この…タイミングで!
時刻は…午後、7時半。
犯行時刻には、早すぎる…時間。
外は…、既に…真っ暗。
いつからだったのか、雪は…既に止み、冷たい風が…何度もひゅうっと駆け抜ける。
平日の家庭ならば、仕事より帰宅し…くつろぐ時間帯であろう。
それが…、どうして!
「大変危険ですから、もっと離れて!この場から…退避してください!」
柏木の、よく通る声が…そんな指示を出した時。
私は、そこでようやく…我に返った。
「貴方がこの家の住人ですか?お気持ちは分かりますが、風も強く…炎が燃え移る危険性があります。ここから離れて下さい。」
「いいえ、中に戻ります!息子が、息子が…!」
身を捩って…何度もその場から抜け出そうとするお婆さん。
取り乱している彼女を、抱え込むようにして懸命に押さえつける…中年女性。
柏木は、お婆さんの肩を…ぐっと掴んで。
その、真偽を…問う。
「家の中に、まだいらっしゃるのですか?」
「離せ!息子が逃げ遅れた、まだ火の中に…!!」
「おばあちゃん、あの人は…もう居ないでしょう。」
一方の中年女性は、宥める…と言うよりは、咎めるような口調で。
声を…絞り出した。
「すみません、気になさらないで下さい。この人、痴呆を患っていて…」
「何を…!この泥棒女っ!どうせお前が火をつけたんだろう?」
「おばーちゃん!」
女性の顔つきが、憂いに…沈んでいく。
「柏木!ここは…、私が。アンタは、住人の誘導を…!」
そう……、悔しがっている暇など…感傷にひったっている暇すらも…ないのだ。
被害の拡大の…防止に、住民の安全の確保。
同時に、現場保存に…発生時の状況の確認。
この一刻を争う…状況下、今、できることを…的確に判断して、応援を待つほか…ないのだ。