恋の捜査をはじめましょう



けたたましく響く、サイレンの音が。
ピタリと…、止まった。



八田は、「軽いなあ~、ご飯ちゃんと食ってんの?」って、軽口を叩きながら…。

スタスタと…歩く。

「さっき…ラーメン、食べ損ねた。」

「まさか、アソコの店?」

「ん。前に一緒に行ったとき、美味しかったから…。」

「……………。」

「……?八田?」

「……いや、覚えててくれたんだなって。」

「うん。中華が絶品だった。」

「ラーメンの話じゃなくて…、って。まあ、いいけど…。それよりお前、さっきので…どっか痛めた?」

「…………。……見てたんだ…?」

「まあね。」

「ありがとう。それから、……ごめん。」

「…………何の…、ごめん?」

「……………。」

「お前は本当、謝ってばかりだったな。」


二人の会話は、そこで…途切れた。







緊急車両、それからパトカーとが、ぞくぞくと…現場へと、到着していた。


地域課の人間が…整備にあたり、機動捜査隊が、周囲を…忙しく動き回る。

消防の、消火活動が…始まろうとしている最中に。

柏木 晴柊…、ヤツの元へと…やって来たのだった。



おぶられている、私の姿を見るなり…
柏木は、八田に向かって…軽く会釈する。


「ウチの馬鹿が、申し訳ありません。」

上司であるかのような、はたまた…父親であるかのような。

完全に上から目線の…謝罪に。

八田がクスリと…笑った。


「柏木、この人は……」

一応、現場に居合わせた…者だ。
疑いの目を向けられないうちに、こちらから…先手を打とうと、思った。

……が、


「無理を承知でお願いします。このアホを、病院まで…連れてっていただけませんか。」

それをアッサリと…打ち切られる。


「え。何言って…」

「足手まといだ。その身体で、何が出来る?」

「……だけど、」

「貴方は、信用していい方だと…判ります。でなけりゃあ、ソイツもそこで大人しくしているタマでも…ないですから。」

「………あの、俺…」

「申し訳ありませんが、俺も、聞き取りに入りますので。ここに留まるおつもりなら…、貴方の素性を洗いざらい訊かせていただきますよ?勿論、任意で…、ですが。」

「結構です。あいにく、偶然通りかかっただけですから…。」

「賢明な判断です。ま、どっちにしても、ソイツの口から聞くことにはなるんでしょうけどね。」

「……あの。すみません、貴方は…?」

「……。ご挨拶もせず、失礼しました。私は、〇〇署刑事第1課の柏木と申します。」

柏木が、警察手帳を…提示して。
それから…、八田は「ふうっ」と大きく…息を吐いた。


「そうですよね、警察の…方だとは、分かっていたはずなんですけど。そうですか…、貴方が。」

……八田?

「ではご協力…感謝します。…『八田』さん。」

「……え?」




礼をした柏木は、こちらに一切目をくれることなく。職務へと…戻って行く。


「………。俺、牽制されたよね、今。」

残された私たち二人の間に、気まずい
空気が…流れる。

「…………。あの。…ごめんね、偉そうな態度で…。」

「潤が…謝らないでよ。」

「…一応、同僚だし…」


「それでも、潤には…関係ないでしょ。」



『関係ない』。その、言葉が…チクリと胸に刺さる。

私は今…、ここで何をしているのだろうと、ぼんやりと…そう思った。

緊張感漂う火事現場。
警察の使命を果すべく、奮闘する…仲間たち。

まるでこれでは。
柏木が言ったように、本当の…『足手まとい』。


視界が…急激にぼやけてくる。
こんなんじゃあ駄目だって思うのに、襲う腰の痛みで…、額にじわりと汗が滲んでいくのが分かる。


「関係…なく、ないよ。……悔しい。」


どうして、こんなに…無力なのか。

悔しいのは、それだけじゃあ…、ない。




「柏木の…、アホ…。」

ヤツに、突き放された気がして…、

それが、心底……悔しいのだ。





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