恋の捜査をはじめましょう
面倒な感情の…舵をとるのは、俺の得意とする所だ。
だから……、どうすれば良いのかを…知っている。
昼の…休憩。
短い時間の合間を縫って、あの場所を訪れるのは…そんな理由だった。
署内の…食堂。
一番端の…テーブル。
刑事第1課の部屋で会うよりも、この場所の方が…ヤツが近い気がする。
何故なら、いつも…一人。
そんな好条件を、見逃す手は…、ない。
1種の…賭けのようなものだ。
ヤツがそこに居るなら…、俺はその場所を選ぶ。
居なかったら…、別に、席にこだわることことは、ない。
「おばちゃん、親子丼ちょーだい。」
食堂のおばちゃんに、そう…注文すると。
今日に限って…、意外な返答が返って来た。
「焼き鳥丼の方が、安いよ?」
「…………?」
「……て、潤ちゃんが…柏木くんに勧めてって。」
「……はあ?」
半熟の卵が嫌いだって…、前にそう言ったからか。
でも、無論…ヤツのお節介など構ってられない。
俺は…、ヤツの後ろ姿を確認する。
「…………?」
食事を終えたようだけれど、なぜか…その場に留まって。
更には、頬杖ついて…放心しているようだ。
多分…、痛めた腰に、まだ違和感でも…あるのだろう。
時折、座り直すような動作をしては…擦ったり、トントン、と軽く叩いてみたり。
物事考えているときすら、じっとしていられないのが…、鮎川らしくもあった。
「……。アイツはどっかのばーさんか。」
つい、笑いが…込み上げて来た。
そんな婆さんと、のんびりとはいかずとも…少しでも時間を共有したいってことは。
俺もまた、茶でも啜って、癒しを求める…じいさんって所か。
「親子丼でいいです。」
「そう?」
「…あ、ただ、ひとつワガママ言っていいですか?」
「……?卵抜きとか、言わないわよね?」
「勿論。それじゃあ意味ないですから。」