HとSの本 〜彼と彼女の夢〜
 そうかい、彼はすんなり引き下がる。
 彼は、急いては事を仕損じる、それが座右の銘だと笑ったことがあった。
「女子供と動物には嫌われる傾向にあるのだがね、折角仲立ちになってもらおうと思ったのだが」
「遠慮する。それから」
 わかっている、とまた笑った。
 胸を反らして両手は腰、実に豪快な笑い方。頭一つ分背が高いから迫力もある。
「有言実行」
 二人の共通点。
 二人はこれを信条にしている。
 口にしたことは誓い。
 為すべきこととして刻む。

 俺は確か、こう言った。
 彼は確か、こう言った。



「あの子に手を出してみろ」
「我輩の邪魔をするのなら」



     ぶっ殺す。



「殺伐としているな」
「アンタが先に公言したんじゃないかっ」
 出会い頭にそう言われた俺はどうすればいいんだ。
 会って早々。
『我輩は重要は研究と命題を常に抱えている。邪魔をしないように。ああ、もしそんなことをしたら命がないので。なに、質の悪い冗談だと? やれやれ物分かりの悪い。いいか無能者共、もう一度だけ言うぞ』

我輩の邪魔をするならぶっ殺す。

 過去の学生時代、休学届けを出した不良生徒が何人もいた。
 そうゆい日に限って、清々しく笑っていた。
 俺は何も言わなかった。


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