HとSの本 〜彼と彼女の夢〜
 黙々とパンを食べる。朝はパン派だし、ご飯なんて重いもの食べられない。
 もっと食べなさい。
 お母さんが食パンを一斤持ってくる。
 さすがにこれは食べられない。
 目を伏せ首を振った。
 いつもどおり、これ以上は食べられないという意思表示。

「もう。姉妹揃って、貴方も食が細いんだから」
 家一番の大食らいが溜息吐く。
 確かに自分は小食なほうだ、けれどお母さんには負ける。
 いくら朝散歩をしたからって、丼一杯は食べ過ぎじゃないのか。
「貴方は美人なんだから。ちゃんと食べて大きくなりなさい」
「そんなこと……」
「少なくとも。貴方は私に似ているわ。顔立ちとか、若い頃にそっくり」

 それは、
 純粋に嬉しい。

 こんな、素敵な人になりたい

 そんな夢が在ったから。

「……(じー)」
 お母さんを見る。
「なに…?」

「……(じー)」
 自分を見る。
 主に首から下を。

「……(じー)」
 もう一度お母さんを見る。
「だからなに?」
 わたしはため息を吐いた。
 所詮、似ているのは顔だけなのだ。
 洗濯板が肉まんになれるはずはない。
「今失礼なこと考えなかった?」
「そんなことない」



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