HとSの本 〜彼と彼女の夢〜
 結局、数学の時間中。
 ずっと着せ替え人形にされていた。
 織先生はそれで満足したのか、やけに血色のいい顔で高らかに笑いながら退室した。

 めそめそ泣くのは止めて、次の授業の支度をする。
 体育を制服で受けられない。
 着替えながら、先程の先生とのやりとりを思い出した。

 ――死なないから『あれ』の講習を受けたい、と言うのかね?

 そんなわけはない。
 世界の生い立ちとか、悪魔がどうとか、下界との接し方とか、そんなことを習うために『あいつら』に教えを乞いたくない。

 ただ、今日の内容は

    『天使の在り方』

 だから、受けてみようと決心した。無理だったけれど。
 わたしの素性は知られているだろうから、『穢れ』を嫌う彼らからすれば見たくもないはずだ。
 ダメでもともと、当って砕けろ、そんな気持ちは確かにあった。

 でもその時の思いは、
 あの時の決意は、
 この信念は、
 軽いものじゃなかった。

 この命が在るのなら、
  どんなに大変でも
  どんなに苦しくても
  どれほど馬鹿にされても
   何をされても構わない

 だから、
  嫌いな相手に
   頭を下げるくらい
    わけはない

『天使』になることが
 できるのならば



「どんなことだって、できる」


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