HとSの本 〜彼と彼女の夢〜
「もう少し走れるんじゃないか、なんて思っていないな?」
「まさかそんな」
「では走れなくともやれる、とも思っていないな?」
「あたりまえじゃないか」
 ああいえばこう言う奴だ。痛いところばかりつく。
 怖い目付きでじっとこっちを睨んでいる。実に心臓に悪い。
 ふむ、と彼は本を閉じ。

「――知らしめるか」
 は?
 何を言うのか、という疑問は声にならなかった。
 いつのまにか、それこそあっという間。瞬きしたときには、地べたに這いつくばっていた。
 それはまだいい(いいのか)。
 問題は、なぜ後ろ手で縛られているのか。
「ちょ、おま」
「安心しろ、痛いのは最初だけだから」
「意味ふ」
「うるさいぜ?」
「んまっ」
 猿轡された。

 大丈〜夫、俺はうまいから。

 ――なにが!?

 傷物になんてしないよ。大事な友達(生贄)だから。

 ――今おかしなルビあった!
   しかも生贄をモルモットって呼びやがった!

 んー、突っ込む元気がまだあるか。じゃあ、逆に突っ込んでみるか。

 ――なぜ持ち上げる。
   なぜ木陰に連れていく!
   手に持ったドリルは何だ!

 だいじょーぶ。










 アッーーーーーーー!!!
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