HとSの本 〜彼と彼女の夢〜
『動物虐待!!』
 同時に吠えられた。
「動物保護団体に訴えるぞこの野郎!!」
 未確認生物推奨が何か言う。
「天が許してもわれが許さん! むしろ天も許さん!」
 人でもない奴が天誅ですか。
 落ち着け、と制す。怒り心頭な二匹の前に缶詰を置いた。
 首を傾げる。丸々と太っていて、頭と体の境目もわからないが、取り敢えずそんなニュアンスが伝わった。
「お土産」
 缶切りを探す。
 二匹は、がーっ、と吠えた。
「缶詰!!」
「猫缶!!!」
『誠意が感じられぬわ!!』
 怒髪天を突く。
 激昂し尾で物を叩く暴挙。
 怒ったというより玩具をねだる拗ねた子供だ。
 そんなにいやなら、と袋叩きに遭う缶詰を救出した。吠える二匹の魔手から遠ざけ。

「猫店『キャッ堂』の限定試作品なんだが、お気に召さないなら仕方がない」

 ぴたり。鳴き止む二匹。
 と言うか足が重い。ついでに言うなら暑苦しい。
「ご主人様〜」
「お代官様〜」
「猫好きだからと思われてよく贔屓にしてくれたお店だったけど、その猫が拒むなら仕方がない。今後の付き合いを考え直そう」
「馬鹿ものめ! 浅はかにも程がある!」
「猫族の理想郷! エデンの園に実るリンゴのごとき美食を奪う気か!!」
 実に喧しい。単純に恵んでくださいと、素直に言えないのか。
 以前猫のプライドがあるといっていたが。
「全国の猫に謝れ」
 猛々しく物を言っているが、足にしがみ付きながら器用に土下座していた。



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