HとSの本 〜彼と彼女の夢〜
「ところで、晩ご飯は何が食べたいかな?」
「……山盛りじゃなければご飯でもいい」
「お腹すいて眠れなくなっちゃうわよ、そんなんじゃ」
「胸焼けするから」
 親子丼の山盛りなんて初めてだった。頼んでもいないのにつゆだくで、バランスをとるためにねぎだくにもなって、必然的に全体率があがって2.3倍。
 そんな丼誰が食べられるだろう。わたしは半分も行かず力尽きた。母はきれいに平らげ自分の分も食べてくれた。
 食物は粗末にしない。
 それが母の流儀だ。

「母さん」
「なあに?」
「体重いくつ?」
「いきなり乙女のタブーに首を突っ込みますか」
「栄養はおしりと胸に行くの?」
「め、目が怖いわよ?」

 恨み言はやめて、素直に晩ご飯の予定を考える。といっても、材料は買ってきてあるんだし作られるものは限られている。
「着替えるから先に行ってて」
「手伝ってくれるのねっ」
「うん。」
「ありがとうっ」
 子供のように喜ぶ母。
 わたしは学校指定の服から私服へと着替えはじめる。普段着にしても違和感のない制服だけど、けじめはしっかりしたい。
 学年で色分けされる蒼いリボンを解いて袖のボタンを外す。このブラウスも支給されたもので、裾や袖がやけに広い。わたしは振り袖みたいにしているより、ボタンで止めているほうが楽だ。
 ブラウスの上に着た、同じくドレスみたいに裾の広いノースリーブのワンピースを脱ぐ。淡い緑色の生地に手を掛け、肩からずらそうとして――――

「なにしてるの」

 視線に気付いた。
 母が、まだそこにいた。
「着替えを手伝ってあげようかなあ、と」
「早く出てって!!」

 先生といい、母といい、わたしのまわりの大人はセクハラばかりか!



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