HとSの本 〜彼と彼女の夢〜
エピローク 〜おやすみなさい〜

彼の夢

 はじめにみえたのは、
 どこまでもいけそうな
 あおくすんだそらだった



 自分が打ち上げられた魚のように喘いでいた。息をしたいと口をぱくぱく動かして、そんなに乱れた心と体では酸素なんて取り込めやしないのに。
 何より、そこは毒だ。
 蒼くて、
 白くて、
 汚れてなくて、
 潔癖で、
 一切の異端を排斥する世界。
 ヒトも、石も、草花も、水も、空気も、味方なんてどこにもいない。

 産み落とした本人達さえ

 祝福してくれなかったのに

 どうして味方がいる?



    お前はいらない



 それがセカイの意志だと
 理解できてしまったから
 自分はここまでだと思ったんだ



 青も白も緑も赤も、
 何もかもがいやになって
 何もかもがどうでもよくて



「そんなものを持つな」



 自分以外の赤さが、
 初めて見えた

 ゆびにはしるあかいいろと
 ぼくがぬしんだぎんいろと

 そのひとのあかいめが



 自分を呼んでくれた気がした。



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