HとSの本 〜彼と彼女の夢〜

彼の朝

 ――チチチチチ……

 鳥の鳴き声が聞こえる。
 日の差す熱が伝わる。
 朝の気配には敏感なのだが、それでも今日は起きれない。
 当然だ。昨夜は何時に寝たと思っている。深夜を過ぎて丑三つ時、夜明けまでの時間なんてすぐに計算できる。
 なら、今日はいいはずだ。
 成績は良くも悪くもない平均。一度や二度の遅刻欠席で地獄を彷徨ったりしない。
 というわけで、本日は重役出勤に決めた。
 お昼はいつも通りにしないと。
 さて、本日の予定を決めたらあとはぐっすり

 ――がすっ

 ……気のせいか。
 鈍い音がした。
 その上腹まで痛い。

 ――ぼふっ

 ……今度は顔だ。
 何が飛来したのか、息ができないほど暖かい何かが乗っている。
 それらは動く気配などなく、一秒でも早く俺を殺そうと。

「……いい加減にどけぇ!!」

『うにゃあぁあああ?!』

 全力で跳ね起きる。
 乗っていた何かたちはゴロゴロ転がって、
『ぷぎゃっ』
 タンスの角にぶつかった。
 ぴくりとも動かなかった。
「悪は滅びた」
 ついでに睡魔も召された。
 愛しい悪魔は二度と訪れなかった。
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