HとSの本 〜彼と彼女の夢〜

彼女の夢

 誰も助けてくれなかった。

 正義の味方なんていなかった。

 友達なんてその他大勢で

 大好きな人すら自分を嫌っているのに!

 だから何もいらない。
 だから誰もいらない。
 だから心配なんてしないで。

 何十にも重ねられた殻。
 閉じこもる、小さな人。
 まわりは敵で誰も無関心で。
 何も与えられなくてすべて奪われて。
 ――関係ない。
 ――放っておいて。
 力の限り叫んだ人がいた。

 始まりは生まれた時から?
 ほんの些細なすれ違い?
 悲しいまでに分かり合えない?
 始点が何であれ、壊れてしまったものは直せない。
 作り直せばいいだなんて、そんなものは都合のいい楽観主義。
 本当に大事なものが壊れた時
 壊れている時
 直るなんて、あるはずがない。

 それほどまでに、少女の世界は壊れていた。
 それほどまでに、少女の世界は狂っていた。

 あるのは痛みと傷みと悼み。
 見知らぬ親族に打たれて痛む。
 血を分けた兄に貶されて傷む。
 名も知らぬ誰かが哀れみ悼む。
 地獄なんて聞いたことしかない者でも、ここがそうなんだと盲目的に信じたくなる箱庭の檻。
 叫ぶ言葉に救いはない。
 生まれ落ちて七つの年が過ぎ、それは幻想だと教わり理解したからだ。
 救いの言葉は知らない。
 吐くのは拒絶。
 血を分けた兄を
 性が同じの親を
 一瞥する他人を

   放っておいてよ。

 誰彼問わず、拒絶してはねのけていた。
 そうしないと壊れてしまう。
 自分が壊れてしまうのだ。



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