HとSの本 〜彼と彼女の夢〜

二人の夢

それが、すべてのはじまりでした



 母の昔、父の昔、わたしが生まれるずっと昔。
 二人が交わった、確かな過去。

 遥か昔、遠い昔、自分を作った陽炎の昔。
 いくつも思いが交差した、過去。

 それが、全ての始まりだった。



 昔を得た経緯は覚えていない。
 気紛れか惚気かお酒の席だったか、母が零してくれた始まりの物語。
 それが、どれほど
  わたしの心を打っただろう。

 昔の記憶はどれほど遠くても、色褪せたことはなかった。
 忘れたいと祈ったことも、数えきれないほど在って、切り捨ててきた。
 そんなことは許されない。
 自分自身が許さない。



 だから、それが全ての始まり。



 ここから――
 わたしは/おれは
 はじまった



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