HとSの本 〜彼と彼女の夢〜
 信じた思いは、嘘じゃない。

 誓った気持ちは、偽らない。

 それがどんなに大変か
 それがどれほど苦しいか
 それをどうして諦めない。

 生きることそのものを懸けるに相応しい思いだから、それしか知らない昔があったから、甦った暖かさがあったから、その思いは二度と折れることはないだろう。

 諦められるほど器用じゃない。
 手を抜けるほど器用じゃない。

 諦められないほどわがままだ。
 やめられないほどわがままだ。

 似たもの同士の二人だから、こうしていられるのだろう。

 頑張って走ってきた彼だから、初めて伸ばした手を離せない。
 頑張って耐えてきた彼女だから、初めて伸ばされたてを離さない。
 だから頑張ろうと、
 二人は手を繋ぐのだろう。

 頑張って走るから、
 頑張ってついていきます。

 頑張って立ち向かうから。
 頑張って一緒にいこう。

 ほんの少しの違いがあれば、繋がれないほど彼らの手は小さいもの。広く深い世界の中で、繋がれた手は大きな奇跡。
 偶然なんてなく
 必然なんて意地悪で
 漠然とした不安のなか

 繋いだ手の温もりを
 離すことはしたくない。

 それは、歪な思い。
 歪な形。
 歪な昔。
 些細な『夢』を見られない、
 そんな二人に訪れた奇跡。

「のどかだねえ」
「のどかですねえ」

 駆け出す足の小休止。
 どんな砂利道も、茨の森も、深い川の橋も、消えゆく虹の崖も、どこまでも行ける旅に出よう。

 だから、今は小休止。

 ふたりで、ちょっと
 休んでいきましょう――――







Fin
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